研究課題/領域番号 |
21J12419
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
松野 悠介 東京理科大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム不安定性 / 放射線 / がん / 変異 / DNA損傷修復 / 複製ストレス |
研究実績の概要 |
放射線被ばくは、がんのリスク要因となる。その直接の影響はDNA損傷誘導と考えられているが、これには様々なタイプのDNA損傷が含まれる。実際、がんは、変異に起因して発症するが、放射線が誘導する様々なDNA損傷の中で、どのタイプの損傷が、どの様に“がんドライバー変異”の誘導を促進しているのか、その詳細なメカニズムは明らかにされていない。そこで本研究では、発がん過程と同様、“ゲノム不安定性”と“ARF/p53経路の変異”に伴って不死化するマウス胎仔線維芽細胞(MEF)をモデルとし、放射線によるゲノム不安定性、および、がんドライバー変異の誘導機構の解明を目指している。 本年度は、放射線照射に伴うDNA損傷応答で現れる老化の誘導過程、その背景で誘導されるゲノム不安定性と、これに伴って現れる不死化への影響の解析を試みた。具体的には、MEFへのガンマ線照射を複数の線量、線量率範囲で行い、その影響を、増殖曲線の作成、FACS、核染色、ジェノタイピングにより解析した。その結果、幅広い線量(0.25-2 Gy)、線量率(1.39-909 mGy/min)で“ゲノム不安定性”と“ARF/p53変異”を伴う不死化の促進が見られた。続いて、これらの条件でのガンマ線照射後のDNA損傷状態の経時的解析を免疫蛍光染色により実施したところ、ガンマ線で直接に生じたDSB(DNA二重鎖切断)の数は、照射した線量や線量率に相関して増加した。一方で、DNA複製ストレスに起因したDSBの数は、照射した線量や線量率に依存せず同程度であった。これらの結果から、放射線ばく露の直接のリスク影響は、『“DNA複製ストレスに起因したDSB”の蓄積に伴う“ゲノム不安定性リスクの高い細胞状態”の誘導』で、『このリスクには“放射線で直接に生じた損傷”は関係ない』ことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に基づき、放射線照射に伴うDNA損傷応答で現れる老化の誘導過程、その背景で誘導されるゲノム不安定性と、これに伴って現れる不死化への影響の解析を実施し、放射線ばく露の直接のリスク影響は、『“DNA複製ストレスに起因したDSB”の蓄積に伴う“ゲノム不安定性リスクの高い細胞状態”の誘導』で、『このリスクには“放射線で直接に生じた損傷”は関係ない』ことを見出した。そのため、本研究課題の目的である『放射線による“ゲノム不安定性とがんドライバー変異”の誘導・促進機構の解明』に向かって順調に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に基づき、高線量照射で現れる“継続的な老化状態”の誘導機構の解析、およびゲノム不安定性・変異の特性解析(NGS 解析と染色体解析)を実施する。これにより、『放射線に起因して生じた“複製ストレス”と、“ゲノム不安定性、およびがんドライバー変異の誘導”の因果関係』を明確にすることを目指す。
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