研究課題/領域番号 |
21J12422
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
佐近 優太 東京外国語大学, 総合国際学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | インドネシア語 / 接辞 / コーパス / 用法基盤モデル / 受動態 |
研究実績の概要 |
本研究では、用法基盤モデルに基づいてインドネシア語の受身標識の一つである接頭辞ter-について考察を行った。当該年度には、このテーマに関して1件の国際会議での口頭発表、1件の学術論文の発表を行った。 口頭発表に関して、受身標識である接頭辞ter-の動作主標示の有無の選択についてコーパスを用いた定量的な研究を行った。具体的にはロジスティック回帰分析を用いて分析を行い、動詞の意味や動作主項の性質が影響していることを提示した。従来インドネシア語における動作主標示は随意的なものと考えれることが一般的であったが、意味によって使い分けられるという新たな知見を提供した。一方で抽象的な意味だけではなく、より細かい動詞の意味や言語外要因も影響している可能性も示唆された。 論文では、受身標識の接頭辞ter-と同形である最上級を表す機能を持つ接頭辞ter-の考察を行った。インドネシア語には最上級を表す形式としてpalingと接頭辞ter-の2つがあるが、接頭辞ter-はその使用範囲が意味的に限定されていることを示した。従来受身標識と最上級の接頭辞ter-の関係性は不明な点が多かったため、二つの機能は別個に扱われることが多かった。この結果は受身標識としての意味が最上級の使用範囲に影響を与えている可能性についての基礎的研究となると考えられる。 現在は翌年度に向け、接頭辞ter-が付加されることによって生じる多様な意味の記述の整理、そしてその発生メカニズムについての論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は接頭辞ter-が用いられている受身文における動作主標示の選択要因、そして最上級用法との関連についての研究を行った。これは本研究課題が中心的な考え方である、接頭辞ter-は一般的なルールと具体的な個別知識の共存によって成り立っていることを支持する、研究上の重要な部分を占めるケーススタディである。これらの成果はそれぞれ国内雑誌、および国際学会で発表を行っている。しかし特に前者の動作主標示の選択要因について、より細かな動詞間の差異、そしてレジスターなどの言語外要因が大きく影響を与えている可能性があることが明らかになった。そのためそれらの影響を捉えるために、新しくデータを収集し、タグ付けを行う必要性が生じた。これらの理由より、当該研究の進行の遅れが発生し、その後に行う予定であった接頭辞ter-と類義の接辞を比較することによって相対的に接頭辞ter-の機能や特徴を明らかにする研究に着手できていない。 しかし、二つの研究成果の発表は当初の目標を達成しており、課題となっている部分に関しても翌年度での終了が見込めるため、おおむね順調に進展していると判断して良いと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、若干の進捗状況における問題はあるものの、当初の予定通り研究を進めていく。第一に前年度に必要性が生じたデータを収集し、タグ付けを行う。第二に、その後に行う予定であった接頭辞ter-と類義形式との比較を行う研究に着手する。こちらの研究に関しても、データの整理、そしてタグ付けを行う必要があるため、第一の研究と同時に進行することで進行の遅れを補うことを目指す。この二つの研究はそれぞれ国際学会と国内学会での発表を予定している。 その後は、質的な面からこれまで主張を補強する目的で、当初の予定通り現在執筆中である接頭辞ter-が付加されることによって生じる多様な意味の記述の整理、そしてその発生メカニズムについての論文を完成させることを目指す。
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