本研究では、近赤外発光材料を志向した重金属を含まない効率的な近赤外発光材料の創製をテーマとした研究を行なった。そのため、「発光材料に適した分子設計法の確立」及び「発光波長の近赤外シフト」の2つを軸に、分子合成および物性評価を行なった。 本年度は「分子設計法の確立」を完了し、「発光波長の近赤外シフト」においてもある程度の知見を集めることができた。「分子設計法の確立」において、申請者は発光コアとしてコンパクトでシンプルな構造であるジフェニルアセチレンを選択し、発光効率の改善に有効なフッ素原子の置換位置を研究した。置換位置を適宜変化させた誘導体を合成し、それらの結晶構造解析及び発光特性評価を行なった。その結果、発光効率の改善には芳香環上のフッ素化による分子間水素結合の形成が発光効率の改善に寄与していることを明らかにした。次に、ここで得られた分子設計法を基に、発光波長の近赤外シフトを試みた。分子内にヨウ素原子を導入することで効率的に室温燐光を得て、発光波長を500 nm付近まで100 nm以上長波長シフトさせられることを見出した。近赤外領域までの十分な長波長シフトは実現できていないが、ここで得られた知見は高い発光効率と長波長シフトを両立できるものであり、この分子設計法が近赤外発光材料の創出に有効であることを示唆している。
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