研究課題/領域番号 |
21J12473
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
佐藤 愛莉 東京都立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 産卵選好性 / ショウジョウバエ / 共生細菌 / 酢酸菌 / 行動進化 |
研究実績の概要 |
産卵場所の選択は次世代の生育環境を決定する重要なプロセスのひとつである。本研究は、発酵した果実に産卵する多くのショウジョウバエと異なり、新鮮な果実にも産卵できるオウトウショウジョウバエを用いて、産卵基質選好性の変化に関与した遺伝基盤とその進化過程を明らかにすることを目的としている。これまでの申請者の研究により、近縁種の産卵基質選択において誘引に働く酢酸菌が、オウトウショウジョウバエでは忌避に働くことが明らかとなっていた。そこで、2021年度はオウトウショウジョウバエが酢酸菌を何によって感知し忌避するのか明らかにすることを目指し、モデル生物であるキイロショウジョウバエの変異体や遺伝子発現抑制個体を用いて、候補の受容体遺伝子の機能を評価した。結果、酢酸菌の代謝によって消費されるスクロースや産生される酢酸の受容によるものでもなければ、嗅覚受容体を介した嗅覚情報に基づくものでもないことが示唆された。 また、オウトウショウジョウバエとニセオウトウショウジョウバエの雑種個体や戻し交雑個体の選好性を評価する関連解析の準備として、各個体の産卵選好性を定量する実験系の確立に着手した。これにより、産卵数や産卵行動の安定化には行動実験条件の再検討が必要であることがわかった。 当初の計画に加え、オウトウショウジョウバエとニセオウトウショウジョウバエの複数の系統について、酢酸菌に対する選好性の調査を進めることができ、選好性には種内多型があることが示唆された。さらに、2021年度は蛹期と羽化直後のメスの産卵管付近をサンプルとしたRNA-seqの発現量比較解析から、オウトウショウジョウバエの特異な選好性への関与が期待される候補遺伝子を挙げることができた。今後は2種において候補遺伝子の変異系統を作成し、オウトウショウジョウバエに特異な産卵選好性の進化に関与した遺伝子の特定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
産卵基質上の酢酸菌を受容・認識する機構解明に関しては、キイロショウジョウバエを用いた産卵実験により、スクロースや酢酸の感知に関わる受容や嗅覚受容の機能解析を実施できた。また、オウトウショウジョウバエとニセオウトウショウジョウバエの雑種個体や戻し交雑個体の選好性を評価する関連解析の準備として、各個体の産卵選好性を定量する実験系の確立にも着手した。 2021年度では当初の計画に加え、オウトウショウジョウバエとニセオウトウショウジョウバエについて、酢酸菌に対する選好性の系統間比較も実施した。これにより、選好性には種内多型がある傾向がみられ、進化機構解明の足掛かりを掴むことができた。 加えて、所属研究室で得られた2種の産卵管付近をサンプルとしたRNA-seq解析の結果を用いた遺伝子群や発現量の比較から、選好性への関与が期待される候補遺伝子が得ることができた。 上記の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は主に酢酸菌の有無に対する産卵選好性について研究を推進することができたため、今後は基質の硬さに対する産卵選好性についても遺伝基盤の探索を進める。 オウトウショウジョウバエとニセオウトウショウジョウバエの選好性の違いへの関与が期待される候補遺伝子に関しては、CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集で2種の変異系統を作成し、酢酸菌や基質の硬度に対する選好性への機能解析を実施する。 また、産卵選好性の種内多型に関しては、オウトウショウジョウバエとニセオウトウショウジョウバエの系統数をそれぞれ追加し、多型の種類や程度の詳細な調査を進める。
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