産卵場所の選択は次世代の生育環境を決定する重要なプロセスのひとつである。本研究は、発酵した果実に産卵する多くのショウジョウバエと異なり、新鮮な果実にも産卵できるオウトウショウジョウバエを用いて、産卵基質選好性の変化に関与した遺伝基盤とその進化過程を明らかにすることを目的としている。 令和4年度は、オウトウショウジョウバエで特異にみられる酢酸菌に対する産卵選好性が変化した時期を推測するため、オウトウショウジョウバエに最も近縁なニセオウトウショウジョウバエを加えた4種のショウジョウバエの複数の系統を用いて、単一の酢酸菌に対する選好性を産卵時、摂食時を区別する方法で調査した。その結果、酢酸菌の種類によっても選好性の程度が異なること、また、オウトウショウジョウバエとニセオウトウショウジョウバエの選好性の程度はそれぞれ系統間で異なるが、摂食時の好みは2種の近縁種であるフタトゲアシショウジョウバエやキイロショウジョウバエとも類似することが明らかになった。よって、オウトウショウジョウバエでみられる酢酸菌への選好性の減少は、摂食時の選好性とは独立して進化したことが示唆された。本成果は論文としてとりまとめ、国際誌に投稿した。 また、令和3年度には蛹期と羽化直後のメスの産卵管付近をサンプルとしたRNA-seqの発現量比較解析を行い、2種で有意に発現量の異なる受容体遺伝子に着目して、産卵選好性への関与が期待される候補遺伝子を選定していた。そこで、令和4年度ではこの候補遺伝子の機能を検証するための候補遺伝子のノックアウト系統の作成をCRISPR/Cas9システムを用いて試み、オウトウショウジョウバエとニセオウトウショウジョウバエにおいてそれぞれノックアウト系統を樹立することができた。
|