研究課題/領域番号 |
21J12478
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加藤 剛史 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | L2ライティング / 学習者コーパス / 自然言語処理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本人英語学習者のライティングにおける言語的複雑性の発達過程を記述し、モデリングすることである。言語的複雑性は、言語使用の多様性・洗練性を主な観測対象とする概念であり、言語情報のレベル毎(例: 統語レベル、語レベル)に多種多様な測定指標が提案されてきている。従来の研究手法では、多量の指標を網羅的に分析に取り入れることが困難であり、当該概念の発達過程については断片的あるいは局所的な結果を得るに止まっていた。そこで、本研究では、大規模学習者コーパスデータに対しコンピュータプログラムを用い、言語的複雑性の関連指標を網羅的に分析することを試みる。今年度は、大規模学習者コーパスEFCAMDAT (EF-Cambridge Open Language Database)に記録されている、初級から上級までの日本人英語学習者の作文データ17,519ファイルを対象に、統語レベルおよび語レベルの言語的複雑性の発達過程を調査し、それぞれ国際学会において発表を行った。 統語レベルについては、文の構造や相対頻度に関する49種類の指標を用いて分析を行った。発達を特徴づける言語上の変化について、初期には従属節の使用の増加と主節動詞の多様化が見られ、初級者から中級者へ熟達する過程で法助動詞の使用の増加と名詞句の後置修飾の増加が見られた。また、上級者の作文には中級者のものと比べ、受動態や非定形節補部、副詞的前置詞句の使用の増加が見られた。 語レベルについては、単語および連語の意味特性や相対頻度に関する57種類の指標を用いて分析を行った。発達の初期段階では、語の多様性が顕著に増加し、初級から中級段階では語の意味の特殊性(意味上の関連語が少ない語の使用)が顕著に上昇した。また、上級段階への発達については、連語としての尤度の上昇が重要な変化として同定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、分析対象となる英作文データの前処理、関連する言語指標の算出、6段階の熟達度間の言語使用の差を特徴づける言語指標の同定を計画していたが、これらを完了し国際学会において成果を報告することができた。 また、これらの分析は、ネットワーク分析による熟達度毎の複雑性の概念構造の記述および発達過程のモデル化に対する基礎的位置付けであるため、次年度以降の分析へ円滑に移行することが可能であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の分析結果を踏まえ、現在着手している英作文データを用いて、ネットワーク分析による熟達度毎の複雑性の概念構造の記述と、発達過程のモデル化を行う。また、この分析で得られたモデルの妥当性について、モデル導出に用いたものとは異なる学習者コーパスデータを用いて検証を進める。
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