研究課題/領域番号 |
21J12517
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
矢崎 英盛 東京都立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 性的二型 / 鱗翅目 / 蛾類 / 行動生態学 / 動物行動学 / 昆虫 / 日周活動 / 分子系統解析 |
研究実績の概要 |
同じ種の雌雄で翅色彩が大きく異なる「色彩の性的二型」は、鱗翅目では♂の派手な色彩や、♀への捕食圧の高さに伴う擬態の多い蝶類でよく知られるが、夜行性種の多い蛾類での報告はほとんどなく、その進化の理由も明らかではない。申請者は、日本産蛾類のシロオビドクガ属2種が、♂♀がそれぞれ別のモデルに擬態する「性限定擬態」という極めて珍しい性的二型の進化である可能性があること、飛翔時間帯にも♂♀で昼夜の差異があることを、初めて実験的に明らかにした。ドクガ亜科ではさらに複数種で活動時間の♂♀の差異と、♂が暗い色彩を持つ性的二型が見られる。報告者はここから、昼行性の♂に対する鳥類等の捕食圧の高さによる隠蔽色の発達を主因とし、それを前適応としてシロオビドクガ属に見られる「性限定擬態」が進化するという、全く新しい性的二型と擬態の進化過程の仮説を着想した。本研究は、フィールド実験と分子系統樹の作成を通じて、この仮説を実験的に検証することを目的とする。 2021年度は、翅色彩の性的二型を持つドクガ亜科のシロオビドクガ、コシロオビドクガ、クロモンドクガ、ヒメシロモンドクガ、ヤクシマドクガ、および対照群として翅色彩の性的二型を持たないマメドクガを、それぞれ野外採集個体から採卵・飼育羽化させ、飼育型の確立を進めた。また飼育羽化個体を用いて、各種の日周活動の測定、捕食者に対する忌避効果の測定、野外における捕食実験などを行い、上記仮説の検証にあたった。さらにABS締結済みの中国農業大学のLiu, Xingyue教授、ベトナム・デュイタン大学のPhan, Quoc Toan主任講師の協力で、中国・ベトナムの近縁種のDNAシークエンスを行い、分子系統樹の作成を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は、翅色彩の性的二型を持つドクガ亜科のシロオビドクガ、コシロオビドクガ、クロモンドクガ、ヒメシロモンドクガ、ヤクシマドクガ、および対照群として翅色彩の性的二型を持たないマメドクガを、それぞれ野外採集個体から採卵・飼育羽化させ、飼育型の確立を進めた。また飼育羽化個体を用いて、各種の日周活動の測定、捕食者に対する忌避効果の測定、野外における捕食実験などを行い、上記仮説の検証にあたった。 さらにABS締結済みの中国農業大学のLiu, Xingyue教授、ベトナム・デュイタン大学のPhan, Quoc Toan主任講師の協力で、中国・ベトナムの近縁種のDNAシークエンスを行い、分子系統樹の作成を進めた。 新型コロナウイルスの影響で予定していた国内での採集や海外での作業の多くが実施不可能になったが、多くの研究協力者に遠方から採集個体や卵、標本を提供頂くなどして、概ね予定していた以上の実験作業の進展を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
国内では沖縄県産の翅色彩の性的二型のあるドクガ類であるヤクシマドクガ、およびスキバドクガを採集し、その飼育系を確立する。さらに飼育羽化させた成虫を用いて、日周活動の計測、配偶活動時間の測定、トカゲ類を用いた忌避効果の測定、紫外線光下での写真撮影による形態測定を行う。また長野県軽井沢町のフィールドを用いて、薄明薄暮時間帯におけるドクガ類に対する捕食圧の違いを測定するために、野外捕食実験を予定している。 海外では、新型コロナウイルスの影響が少なくなっていた場合、中国(雲南省:中国農業大学とABS締結済み)、ベトナム(ダナン:デュイタン大学 とABS締結済み)へそれぞれ2週間程度滞在し、海外産のドクガ亜科を採集する。得られた蛾類は遺伝子解析のための試料とするとともに、現地で日周活動の計測、配偶活動時間の測定、トカゲ類を用いた忌避効果の測定、紫外線光下での写真撮影による形態測定を行う。海外渡航が不可能な場合、研究協力先の大学の所蔵標本を用いた遺伝子解析のための試料の収集と、北海道でのサンプルの追加を行う。 また研究成果を2022年7月にフィンランドで開催される第26回国際昆虫学会議(ヘルシンキ)で発表するとともに、査読付き原著論文を国際学術誌に発表する。
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