研究実績の概要 |
本邦を含む高齢化社会では、様々な中枢神経疾患が人々の日常生活動作を低下させ、社会財政や医療資源にも多大な負担となっている。これらの中枢神経疾患の多くでは、脳内の常在免疫細胞(ミクログリア)の異常な活性化により過剰な炎症反応を引き起こし、病態進行に負の影響をもたらすと考えられている。そのため、脳内免疫細胞の活性化あるいは機能破綻メカニズムは、中枢神経疾患治療における重要なターゲットである。 本研究では、まず、ヒトiPS細胞から、短期間で大量のミクログリア(hiMGLs)を分化誘導することに成功した。 今年度中、Primary microgliopathyと考えられている那須-ハコラ病(Nasu-Hakola Disease, NHD) をモデルとして、疾患解析を試みた。NHDは、DAP12、あるいはTREM2遺伝子の変異により発症する。まずは、NHD患者2名のiPS細胞からhiMGLの分化誘導を行った。健常hiMGLと比べ、NHD-hiMGLはアメボイドな形態を示し、活性化の特徴を示した。また、NHDの臨床特徴である白質脳症に着目し、NHD-hiMGLのミエリンに対する反応について、評価を行った。野生型マウス脳からミエリンを回収し、hiMGLの培地中に添加した。健常hiMGLで観察された凝集や、hiMGLの形態変化は、NHD-hiMGLでは弱い反応を示した。Amyloid βが培地中に添加する場合も、同様な現象が観察された。以上、DAP12の変異により、ミクログリアの炎症反応に障害を引き起こすと仮説を立てた。現在は、RNA-Seqや、キメラマウスの作成などの手法を用いて、NHDの病態、およびDAP12/TREM2メカニズムについて詳細な解析を行っている。 本研究で開発したヒトミクログリアの分化誘導法は、ミクログリアの生理機能や、ミクログリアが関連する多様な疾患解析に適応可能です。
|