研究課題/領域番号 |
21J12566
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
佐々木 遼馬 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 固体電解質 / イオン伝導度 / 分子動力学法 |
研究実績の概要 |
本年度は、(1) これまで取り組んでいた分子動力学法による新規有機分子結晶電解質におけるイオン伝導機構の理論的解明に関する継続研究、(2) 非平衡分子動力学法によりイオン伝導度を正確かつ高速に計算する新規手法開発の2つに取り組んだ。 (1): リチウムが結晶骨格の構築要素となっているにも関わらず、高速にイオンが伝導することが実験的に示されたスクシノニトリル(SN)系分子結晶電解質(Li(FSA)(SN)2)のイオン伝導機構解明に向けて古典分子動力学法を実行した。その結果、リチウムイオン欠陥が生じることで、リチウムイオンの高速なイオン伝導が起こることが明らかになった。この際に、リチウムイオンが周囲に存在するトランス体のSN分子のスイング運動と協奏的にホッピング伝導をすることで、高速なイオン伝導(低い活性化エネルギー)を発現することが示された。更に、このスイング運動をより引き起こすために、分子構造がトランス体に固定化されたジニトリル化合物フマロニトリルをLi(FSA)(SN)2のSN分子に対して一部置換することで、更なる伝導度向上が見込めると理論的に提案した。本成果は、J. Mater. Chem. A誌に原著論文として掲載された。 (2): 系に外場を与えることでレアイベントであるイオンのホッピング伝導を促進し、サンプリング効率を良くすることで、従来の平衡分子動力学法に比べて高速にイオン伝導度を評価できる新規非平衡分子動力学法を定式化・実装した。本手法開発をまとめた成果は既に論文誌に投稿された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で注目している安全かつ柔軟な電解質の開発促進という観点に適合した、スクシノニトリル系固体電解質における特異なイオン伝導機構を理論的に明らかにした。しかし、電池におけるイオン伝導を包括的理解には、電極/電解質界面におけるイオン伝導および電解質の分解により形成される電極保護膜に関する理解が必要であり、今後の研究の課題として残っている。 分子動力学法を用いたイオン伝導度計算には、高い計算コストが必要であることが課題である。そこで、新しいイオン伝導度計算手法を開発し、5倍程度の計算コスト削減に繋がることを実証した。この手法は、液系電解質、固体電解質、界面における局所的なイオン伝導度を算出できる汎用的な手法である。現在は、本手法をガラス/固体のコンポジット電解質に適用することを考えており、シミュレーション上困難なガラスのモデリングに関しても概ね達成できた。 以上に述べたように、バルクにおけるイオン伝導機構を整理し、複雑な界面でのイオン伝導を理論的に研究する土台作りを達成した。これにより、次年度でこれまでの研究で困難であった界面におけるイオン伝導の理論的研究を本格的にできるようになったため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
界面における特異なイオン伝導に焦点を当てた研究を行う。現在は、ガラス電解質と固体電解質を複合化させることで、両者のイオン伝導度より高いイオン伝導度が発現する系に着目している。バルク体の理論研究の報告は多いものの、ガラスおよびその界面におけるイオン伝導向上を理論的に研究している例はその困難さから限られている。前年度に開発した手法を用いることで、これらの研究が可能になり、界面での特異なイオン伝導向上メカニズムの微視的解明が期待される。 高濃度電解液においてよく用いられるアニオンであるTFSAアニオンとFSAアニオンにおける界面保護膜形成についての理論的研究を行う。前年度に行なったスクシノニトリル系電解質にもFSAアニオンは用いられており、この系における保護膜の効果も含めて、実験と共同してFSA・TFSAアニオンにおけるの電極上の分解機構の理解を試みる。
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