研究課題/領域番号 |
21J12606
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
石野 隆美 立教大学, 観光学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 人の移動 / モビリティ / フィリピン / 身体 / フィールドワーク |
研究実績の概要 |
本研究は、フィリピン・マニラからの訪日観光旅行を事例に、フィリピン人観光者がマニラにおいて観光ビザ申請を行う具体的過程を文化人類学的に明らかにすることを目的としていた。令和3年度の1年間は、観光研究、欧米圏モビリティ研究、フィリピン地域研究、文化人類学分野について先行研究整理を行い、充実した成果報告を果たした。具体的には、まず観光研究及び欧米圏のモビリティ研究分野の整理により、国境を越えた人の移動をめぐる同分野の理論的課題を明らかにし、その成果を『観光学評論』(観光学術学会)に査読付論文として投稿した。また、移動する身体の人類学的研究の新展開を示す論考として、「移動的存在としてのフィールドワーカーの身体性」を既存の人類学的フィールドワーク論の蓄積に位置づけて論じた査読付論文を『立命館大学人文科学研究所紀要』に1報発表した。令和3年度はこれらの査読付論文2報のほかにも、「人の移動と身体」という本研究のメタテーマに関連して、観光学/文化人類学分野の学術書の執筆を4冊、学会での口頭発表を4報(うち英語での発表1報)実施できた。これらの理論的な成果は、人の越境移動における微細な経験をその身体性および法的・制度的な観点から描き出すための新たな分析枠組みを、上述の多岐に渡る分野に提示する重要性と意義をもつ。 当初の計画では、令和3年度1月から3月の期間、マニラでの現地調査を行う計画であった。だが感染症の影響によって年度内の渡航ができなかったため、令和3年度の海外調査用旅費を令和4年度に繰越し、令和4年度5月22日から6月30日までの期間、繰越予算によるマニラ現地調査を実施した。調査では、フィリピン人がビザ申請に必要な経済所得証明書などの書類をマニラ市内でいかに準備しているのか、またその過程で家族や知人、旅行会社職員といかに協働的な関係を結んでいるのかについて、人類学的に明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の影響により現地調査は後ろ倒しとなったが、文献研究にもとづいた本研究計画の理論的進展は著しい展開をみせることができた。その事実は、令和3年度内で発表された研究成果の質・量に示されている。具体的には、査読付雑誌論文を2報、国内学会での口頭発表を1報、国内での日本語のシンポジウム登壇および口頭発表を1報、国際シンポジウムでの英語による口頭発表を1報、そして国内での研究会における口頭発表を1報(以上、口頭発表計4報)発表した。また、文化人類学分野・観光学分野の学術書籍および教科書4冊への分担執筆を行うことで、自身の専門的な研究内容の幅広い社会還元をも達成することができたと考えている。 また、令和3年度の繰越予算を用いて実施した令和4年5月から6月までの現地調査では、マニラ市内での人類学的なフィールドワークによって、ビザ申請者のビザ申請書類準備の具体的過程やそこにおける制度的困難の様相について、また、その過程で旅行会社職員や行政職員がそこにいかに協働的に関与しているのかについて、きわめて具体的かつ微細な経験的データを集めることができた。また、その調査の過程で、令和4年度に日本への観光渡航や親族訪問渡航を検討しているフィリピン人と多数知り合うことができ、令和4年度に引き続き実施する現地調査の充実した進行に向けた準備を進めることができた。 理論的研究とその成果報告の充実度、そして当初の計画から後ろ倒しとなりながらも充実したデータ収集を果たした現地調査の進捗を踏まえて、当初の計画以上に研究を進展させることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では、令和3年度繰越予算を用いて実施した令和4年5月22日から6月30日までの現地調査から引き続き現地調査を継続する。具体的には、令和4年7月1日から10月下旬までの期間、マニラでこれまで実施してきた旅行会社職員や観光ビザ申請者に対する人類学的調査をより進展させていく。 研究を遂行する上で生じた問題点は、おもに新型コロナウイルス感染症による現地調査遂行への影響という点で、2つある。第1に、新型コロナウイルス感染症の影響によって、本研究の開始以前から関係を構築することができていた調査協力者(現地旅行会社職員)が職を辞したり、休職してしまったりしたことで、インタビューを予定していた調査協力者の数がおよそ半減してしまったことである。第2に、新型コロナウイルス感染症の影響は本研究が対象とするような観光・旅行業に深刻な負荷を与えており、調査を予定しているフィリピン・マニラの旅行会社では営業中止や、訪日観光ビザ受付停止などの業務縮小がみられている。以上の2点から、現地調査で実際に聞き取り調査と参与観察調査を実施することができる対象に制限がかかっている現状である。 この問題を解決していくために、令和4年度では、まず10月末まで実施するマニラ現地調査ではすでに知り合っている旅行会社職員や観光ビザ申請者の協力を得て、過去に旅行会社職員として勤めていた者やビザ申請経験のある者を紹介してもらい、かれらから経験を聞き取る作業に取り組むこととする。また、11月以降の日本帰国後も、SNSやオンライン会議ツールを用いて現地インフォーマントからの聞き取りを継続する方針である。
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