本研究は、フィリピン・マニラからの訪日観光旅行を事例に、フィリピン人観光者がマニラにおいて観光ビザ申請を行う具体的プロセスを文化人類学的に明らかにすることを目的としていた。令和4年度では、5月にフィリピンへの渡航規制が緩和されたことを受けて、5月から同年10月までの期間をもちいたマニラ現地調査を実施することができた。現地調査では、訪日観光ビザの申請受付と補助業務を行う日系旅行会社での参与観察調査を行い、次の3点を明らかにした。 第1に、訪日観光ビザの申請のためにビザ申請者が作成・収集しなければならない各種書類(出生証明書や預金残高証明書など)を人々が準備する「ビザ申請前」のプロセスについて参与観察を行った。必要書類の「束」をビザ申請が作るために、彼らがどのようにマニラ市内を移動するのか、知人や家族、あるいはSNSコミュニティをいかに活用しながら「効率の良い書類準備」を人々が模索していくのか、といった点を明らかにした。また第2に、そうして集められたビザ申請書類のセットを介して、旅行会社職員とビザ申請とのあいだでいかなる協力関係が紡がれるのかについて、旅行会社での観察調査から記述的に分析した。最後に、日本在住者の「招聘」によって訪日しようとする人びとが、その訪日観光ビザや知人訪問ビザの必要書類を準備するプロセスを調査した。この場合、ビザ申請はフィリピンの申請者が作る書類と、日本側の「招聘人」が作りマニラへと国際郵送する書類によって構成されるのだが、そのようにドキュメントが国境を越えて移動する過程で、申請者と招聘人の関係性がいかに変化し揺れ動くのかを明らかにした。 現地調査後は、令和3年度に集中的に実施した文献研究と今年度の現地調査データを接合し、訪日観光ビザ申請の人類学的研究を取りまとめる作業を進めた。綜合的な成果は令和5年度に博士学位論文として発表・公開される見通しである。
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