本年度は、ウイルス粒子分泌の解析を主に進めた。日本脳炎ウイルスのサブウイルス粒子 (SVP: sub viral particle)量を定量する実験系を用いて、日本脳炎ウイルス粒子が受ける糖鎖修飾の分泌への影響を調べた。ウイルス粒子表面のウイルス構造タンパク質Envelipe (E) タンパク質の、フラビウイルス間で保存されている1か所のみの糖鎖修飾 (N154) を欠損させるとSVPの分泌が激減し、またデングウイルスでのみ確認されている糖鎖修飾 (N67) を追加すると分泌が上昇した。宿主因子欠損により、糖鎖末端のN-アセチルグルコサミン、ガラクトース、またはシアル酸付加がされない状況でのSVP分泌を調べたところ、変化しなかった。また、SVP分泌は糖鎖認識カーゴレセプターであるERGIC53またはERGIC-Lの欠損の影響も受けなかった。細胞中でのSVPでの状態を調べるために凍結融解に細胞を可溶画分と不溶画分に分画すると、糖鎖修飾を受けないEは不溶画分に殆どがおり、糖鎖修飾が追加されたEは可溶画分への移行が増えていた。また、糖鎖修飾を受けないEはERADによる分解を優先的に受けていることも確認しており、Eの受ける糖鎖修飾は標的細胞受容体との相互作用のみならず粒子形成促進を介して分泌の上昇に寄与することが示された。JEV以外のフラビウイルスでは、糖鎖修飾 (N154) を受ける株と受けない株 (N結合型糖鎖修飾サイトが存在しない)両方を含む種が知られている。それらウイルスのSVPを分析した結果、糖鎖修飾を受けている株の方が受けていない株に比べ、分泌率と可溶性が共に高くなっていることが確認された。すなわち、N154糖鎖修飾が粒子分泌に寄与していることがフラビウイルス間で保存されていることが示唆された。
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