研究課題/領域番号 |
21J12611
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 崚 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | コンポーネントワクチン / タンパク質重合体 / 微生物由来トランスグルタミナーゼ / 分子クラウディング環境 |
研究実績の概要 |
ワクチンは感染症予防のために利用される医薬品である。本研究は酵素反応を介して、抗原部位のみから構成される直鎖状構造を持つコンポーネントワクチンの創製を目的としている。その基礎検討として、2021年度は緑色蛍光タンパク質(EGFP)をモデルタンパク質として利用し、酵素反応によるタンパク質重合化を促進する反応系の構築に取り組んだ。 申請者はこれまでに生体内で架橋反応を触媒する酵素である微生物由来トランスグルタミナーゼ(MTG)の反応点を含むタンパク質架橋用のペプチドタグ(PolyTag)の設計を行い、PolyTag融合タンパク質をMTGによって重合化させる技術を確立した。しかしながら、その主生成物はタンパク質オリゴマーであり、コンポーネントワクチンとして利用するには重合度が不十分であることが示唆された。そこで、酵素反応によるタンパク質重合化促進のために、分子クラウディング環境に注目した。 分子クラウディング環境とは高分子が高濃度に存在する、細胞内を模倣した溶液環境である。当該環境においてPolyTag融合EGFPとMTGを混合すると、生化学実験が行われる緩衝溶液中と比較して、高度に重合化された生成物の形成が確認された。これは溶液中に含まれる高分子の排除体積効果によるものだと考えられる。また、EGFPと細胞上の受容体を認識するタンパク質(Affibody)を融合した分子をモノマーとして用いた場合でもクラウディング環境下で重合化が促進された。以上のことから、抗原タンパク質に対してアジュバント分子を付加した材料をクラウディング環境下で重合させることで、マルチコンポーネントワクチンに利用可能な生成物が得られる可能性が示唆された。 2021年度の成果については、国内学会7件、国際学会1件で発表し、うち3件で受賞した。また、当該内容については筆頭著者として論文投稿の準備を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者はこれまでに共有結合形成反応を触媒する酵素である微生物由来トランスグルタミナーゼ(MTG)とその架橋点を含むペプチドタグ(PolyTag)を融合したタンパク質を用いて、直鎖状構造を有するタンパク質重合体を調製する技術を報告したが、得られる主生成物はタンパク質のオリゴマーとなっていた。2021年度は分子クラウディング環境を反応場として採用することで、緩衝溶液と比較して、高度に重合化されたタンパク質重合体を獲得できることを明らかにした。 また、マルチコンポーネントワクチンの設計指針を定めるために、2つの分子から構成されるタンパク質モノマーの重合化反応を実施した。その結果、単一分子から構成されるタンパク質だけでなく、複数分子から構成される分子をモノマーとした際もクラウディング環境においてMTGによる重合化が促進されることが明らかとなった。この結果より、抗原タンパク質に対してアジュバント分子を付加した材料をクラウディング環境下で重合させることで、マルチコンポーネントワクチンに利用可能な生成物が得られる可能性が示唆された。 以上のように、2021年度はタンパク質を高度に重合化させる系の構築に加え、マルチコンポーネントワクチンの設計指針において進歩があったため、おおむね順調に研究が進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度までに、MTG反応とタンパク質架橋用のPolyTagを利用することで、直鎖状構造を有するタンパク質重合体の調製に成功した。また、クラウディング環境を反応場として利用することで、高度に重合化された産物の獲得に成功し、その過程において直鎖状構造を有するマルチコンポーネントワクチン調製に必要な分子の設計指針を明らかにした。2022年度は昨年度までの成果を踏まえ、1.クラウディング環境を反応場とする酵素触媒重合反応の機構解明及び、2.直鎖状マラリア抗原重合体の構築へと研究を展開し、本研究の汎用性と社会的価値を追求する。 1については分子量が異なる人工高分子を用いて、クラウディング環境を調製し、当該溶液中で基質とMTGを混合し、架橋産物を獲得する。この際、基質としてMTG反応性を有する蛍光小分子とPolyTag融合EGFPを採用し、得られた産物について、電気泳動及び分子間のエネルギー移動反応を用いて評価する。その後、クラウディング剤と基質分子の大きさがMTG架橋反応に与える影響を包括的に考察する。 2については球状コンポーネントワクチンとして利用例があるマラリア抗原を用いた検討を実施する。まずは遺伝子工学的手法により、マラリア抗原にPolyTagを融合させた遺伝子を構築する。当該抗原分子はカイコ-バキュロウイルス発現系を用いて発現と精製を行う。次にMTG反応を介してPolyTag融合マラリア抗原の重合化を緩衝溶液中及びクラウディング環境中で実施し、タンパク質非変性および変性条件下での電気泳動を行うことでその重合挙動を定性的に評価する。また、アジュバント分子としてCpGを修飾した抗原の重合化を併せて実施することで、抗原とアジュバントを含むマルチコンポーネントワクチンの創製に挑戦する。最後に得られた重合体を樹状細胞に添加し、取込量を比較することで重合度と抗原性の関係を評価する。
|