ワクチンは感染症予防のために利用される医薬品である。本研究は酵素反応を介して、抗原部位のみから構成される直鎖状構造を持つコンポーネントワクチンの創製を目的としている。申請者はこれまでに生体内で架橋反応を触媒する酵素である微生物由来トランスグルタミナーゼ(MTG)の反応点を含むタンパク質架橋用のペプチドタグ(PolyTag)の設計を行い、PolyTag融合タンパク質をMTGによって重合化させる技術を確立した。しかし、当該手法で得られる主生成物はタンパク質のオリゴマーであり、コンポーネントワクチンとして利用するには重合度が不十分であることが考えられた。申請者は前年度までに分子クラウディング環境という溶媒環境において、MTGが触媒するタンパク質重合体形成反応が促進される現象を明らかにしたが、そのメカニズムは不明であった。そこで2022年度は分子クラウディング環境におけるタンパク質間の架橋反応についての詳細な解析を実施した。 分子クラウディング環境とは高分子が高濃度に存在する、細胞内を模倣した溶液環境である。当該環境において蛍光小分子基質、蛍光小分子とタンパク質基質、タンパク基質の架橋反応を評価し、エネルギー移動を指標として、緩衝溶液中における架橋速度と比較した。その結果、蛍光小分子基質同士の架橋はクラウディング環境中で減速し、タンパク質基質同士の架橋は緩衝溶液中よりも1.3倍加速されることが明らかとなった。これは溶液に含まれる高分子の排除体積効果により、タンパク質基質と酵素の接触が促進されたためだと考えられる。よってクラウディング環境は酵素反応を介したコンポーネントワクチン形成のための有用な反応場であることが示唆された。 2022年度の研究成果について、4件の国内学会および3件の国際学会で発表を行った。また、当該成果については一編の論文としてまとめ、受理された。
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