研究課題/領域番号 |
21J12663
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小室 仁 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 心臓線維芽細胞 / 心不全 |
研究実績の概要 |
scRNA-seqにて心臓線維芽細胞の遺伝子発現パターンには不均一性が見受けられたため、線維芽細胞を詳細に解析したところ、さらに6つのサブタイプに細かく分類できることがわかった。申請者はこのサブタイプの中から心不全期特異的に出現する線維芽細胞集団に着目し、Heart Failure(HF) fibroblastと定義した。HF fibroblast群は線維芽細胞集団の中で転写因子c-Mycを特異的に発現していた。そこでin vivoにおいて心不全期の心臓においてのみc-Myc陽性の心臓線維芽細胞が観察され、その心不全特異性が確認した。 続いて、心臓線維芽細胞特異的c-Myc KOマウスと心臓線維芽細胞特異的c-Myc過剰発現マウスを作成した。野生型(WT)マウス、心臓線維芽細胞特異的c-myc 欠失(KO)マウス、心臓線維芽細胞特異的c-myc過剰発現 (OE)マウスに大動脈縮窄術(TAC)を施して圧負荷による心不全を誘導したところ、WTマウスに比較してOEマウスにおいて心機能の低下が顕著となり、逆にKOマウスでは心機能の低下が抑制された。またWTマウスに比べてOEマウスでは生存率が低下し、KOマウスでは生存率が上昇した。しかし、一方で、成獣マウスの心臓線維芽細胞の初代培養実験では、心臓線維芽細胞においてレトロウイルスベクターを用いてc-mycを過剰発現させても心臓線維芽細胞単独では遺伝子発現レベルで心臓線維化や炎症に関わる遺伝子発現の上昇はみられなかった。以上の結果から、HF fibroblastに発現するc-mycは心機能を低下させ心不全増悪に働いていることを示しており、線維芽細胞においてc-mycによるなんらかの因子の発現が上昇しそれがパラクラインとして心筋細胞に作用した可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、c-mycの心臓線維芽細胞特異的欠失マウス及び過剰発現マウスを作成し、その解析もほぼ完了し、c-myc陽性心不全特異的心臓線維芽細胞が心不全病態にどのように関与しているかも仮説が立ったので、2022年度はメカニズムの解析を行い論文化を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
上記の結果から、今後は下記の計画を立てた。①c-myc発現心臓線維芽細胞が分泌している液性因子の探索。予備的結果は、HF fibroblastに発現するc-mycは心機能を低下させ心不全増悪に働いていることを示しており、c-mycによって線維芽細胞において発現の変化するなんらかの因子がパラクラインとして心筋細胞に作用した可能性を示している。そこで、初代培養した心臓線維芽細胞にレトロウイルスを用いてc-mycを過剰発現し、その培養上清を心筋細胞に添加して不全心で認められるような遺伝子発現が認められるか否かを確認する。また、TACを施して心不全にしたWTマウスとc-myc KOマウス、c-myc OEマウスの心臓からmRNAを回収し、c-mycにより心臓線維芽細胞で発現の上昇している液性因子を同定し、その役割をその液性因子の添加やノックダウン実験により明らかにする。②non-coding RNA解析 (miRNA-seq解析)。いくつかのmicro RNA (miRNA)が心不全に関与することが報告されている。また最近miRNAの中にはエクソソームとして細胞外に分泌され、ほかの細胞に取り込まれて作用することも報告されている。そこで、①と同様にc-myc発現心臓線維芽細胞のmiRNA-seq解析を行い心不全の病態に関与している可能性のあるmiRNAを探索する。③線維芽細胞が発現、分泌する分子の心不全発症における役割の解明。①②で同定した分子が心不全の発症に関与しているか否かについて心不全マウスモデルで検証する。候補分子がタンパクの場合は抗体またはshRNA、miRNAの場合はantagomirを用いて圧負荷による心不全発症を抑制できるか否かを検証する。
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