申請者はこれまで非心筋細胞の中でも線維化の中心的な役割を担っている線維芽細胞の線維化以外の心不全発症における役割を検討した。マウスの心臓に圧負荷を与え、single cell RNA-seq (scRNA-seq)を行ったところ、不全心において心臓線維芽細胞は不均一であり6つのサブグループに分かれることが判明した。その中で心不全期に特異的に出現する心臓線維芽細胞が存在すること、さらにその心臓線維芽細胞にのみ転写因子c-Mycが高発現していることを発見した。そこでこの心不全特異的線維芽細胞におけるc-Mycの役割を明らかにするために、心臓線維芽細胞特異的c-Myc KOマウスとc-Myc OEマウスを作成した。圧負荷による心不全を誘導したところ、WTマウスに比較してOEマウスにおいて心機能の低下が顕著となり、逆にKOマウスでは心機能の低下が抑制された。このことは心臓線維芽細胞が線維化とは異なる機序で心不全発症に関与していること及び心不全特異的心臓線維芽細胞で発現するc-Mycが心不全発症の原因になっていることを示している。次に、c-Mycがどのようにして心筋細胞の機能を低下させるかを検討するため、マルチオミクス解析を行ったところ、c-Mycを発現する心臓線維芽細胞が分泌する因子が心筋細胞に作用していることが示唆された。RNA-seqのデータとscRNA-seqのデータから因子の候補を絞り込み、心臓線維芽細胞が分泌するCxcl1が心筋細胞に直接作用していることが示された。そこで心不全モデルマウスにCxcl1の特異的な受容体であるCxcr2の中和抗体を投与したところ、投与しないマウスに比べて心機能の低下が抑制された。このことから、心不全時に出現するc-Myc陽性心臓線維芽細胞がCxcl1を発現し、それが心筋細胞に作用することで心不全の病態に影響を及ぼしていることが示唆された。
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