研究課題/領域番号 |
21J12669
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
大崎 晴菜 岩手大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 群集生態学 / 動物ー植物相互作用 / 植物間相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究課題「植物群集の分布の多様性が植食者群集に与える影響」では、植物群集の空間構造がもたらす近隣植物同士の相互作用に着目し、植物の葉形質の可塑的な変異が節足動物群集に与える影響を明らかにすることを目的としている。 本年度は、植物群集の空間配置および植物間相互作用が植食者の群集構造に与える影響を実験的に明らかにするため、自然条件を模倣した植物群集を構築し、栽培実験を行った。多年生草本4種16株を大型のコンテナに植えたものを野外に設置し、10日おきに植物群集上の節足動物の種と個体数、および各植物体の成長率と食害率を記録した。このとき、植物の配置(凝集/散在)と各植物体間の仕切りの有無を操作することで、植物群集の空間構造と植物間相互作用の影響を評価した(配置2条件×相互作用2条件×4反復)。その結果、植物の空間構造に応じて異なる節足動物群集が形成され、アブラムシやハムシなどの植食者の個体数に影響がみられた。また、空間構造の影響は相互作用の有無に応じても異なる傾向がみられ、相互作用を介した植物の葉形質の変異が節足動物群集に影響を与えている可能性が強く示唆された。また各処理の影響は、時間的にも変動した。とりわけ、20~40日目における条件間の差が大きい傾向にあり、初期の群集形成や侵入プロセスに強く影響すると考えられた。また、アリ類などの植食者以外の高次の生物の分布にも影響がみられ、節足動物間の相互作用に対する効果も明らかになった。これらの結果は、植物群集の種組成や個体数が同じであっても、植物の空間構造の違いによって異なる節足動物群集が形成されており、それらは植物間相互作用の効果に媒介されている可能性を示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、大規模な群集操作実験を実施できたことは最大の研究成果といえる。半年間の経時的な観察により、植物群集の空間構造に応じて異なる節足動物群集が形成される傾向がみられ、仮説を支持する成果が得られている。一方で、季節的な変動もまた空間構造に応じて異なる傾向も観察された。このため、次年度も観察を継続し、同様の影響がみられるのかを調査する。加えて、時系列を考慮した群集解析も実施し論文にまとめることを次年度の課題として計画している。 これまでの研究成果の一部は、2本の国際論文と1つの国際学会、1つの国内の学会にて報告することができた。また、国際的な議論のため、7月に国際昆虫学会議(International Congress of Entomology)への参加を計画していたが、新型コロナウィルスの蔓延のため、次年度に延期となった。 これらの状況を加味し、2021年度はおおむね順調に研究を進展できたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は主に3つの研究に取り組む。 ひとつめは、昨年度実施した栽培実験のデータを用いた群集解析および時系列解析を実施する。昨年度は、空間構造の異なる植物群集を構築・野外に設置し、植物群集上に形成される節足動物群集の群集構造について記録した。これらのデータに対し、NMDSなどのより専門的な解析を行うことで、植物群集における空間構造と植食者群集の関係の解明を目指す。 ふたつめに、植物群集における葉形質の代謝解析を行う。異なる種の隣接植物に曝した条件で植物を栽培し、葉に蓄積される二次代謝産物の網羅的解析を行い、植物間相互作用に伴う葉形質の変異を明らかにする。 みっつめに、数理モデルを用いたシミュレーション解析を実施する。これまでの実証研究によって得られているデータをもとに、植物の空間構造を変化させた複数のシナリオを構築し、嗜好性の異なる2種の植食者からなる植食者群集の群集構造に与える影響を調べることで、他種共存の条件について探索する。 昨年度までの研究成果は7月にフィンランドで開催される国際昆虫学会議で発表をおこなう。また、今年度の成果は9 月下旬までに得られる予定であり、現在執筆中の論文にデータを加え、投稿を目指す。全体の研究成果は、3月に仙台で開催される日本生態学会において発表する予定である。
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