先行研究の後継論文が他の研究グループから発表され、それが本研究計画に大きく影響するものであったため、今年度はまず研究計画・テーマの練り直しからスタートすることを余儀なくされた。そのグループの論文によると、自由場という特殊ケースでは、既に知られている代数的場の量子論の因果律を破らない(=物理的に許される)測定過程によって、任意の局所物理量を近似できることが示された。拙研究計画の第一段階は、局所物理量間の因果律を破らない量子通信路の条件の整理・構成であったため、この測定過程と局所物理量の対応を詳しく調べ、量子通信路の定式化につなげることが、研究の第一段階を進める有力な選択肢となり得る。実際には当該グループの論文の結果は局所物理量間の因果律を破らない量子通信路の定式化には不満足な点がいくつかあることが判明したため、その不満足な点を解消することを目指し、研究を進めた。これを計画練り直し以前に進めていた限定的な条件下での代数的場の量子論の量子操作の定式化の研究と併せて、結果をまとめることを目指している。 また、このような定式化とは別角度からの研究ということで、近年研究が進むブラックホールの情報喪失パラドックスのHayden-Preskillによるトイモデルに関する研究も進めた。Hayden-Preskillによるトイモデルとは、ブラックホール内のダイナミクスとホーキング輻射を量子通信路として模倣し、ブラックホールに吸い込まれた量子状態の復元可能性を問うもので、今回の研究ではその具体的な復元方法を構成し、それまでの研究よりもより小さい誤り確率で情報の復元を達成できることを示した。
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