研究課題/領域番号 |
21J12829
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
柴田 里彩 九州大学, 人間環境学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 地方教育行政 / 「高校魅力化」 / 高校教育制度 / 地方創生政策 / 新制度派組織理論 / 他機関との連携・調整 |
研究実績の概要 |
1)地方創生政策を背景とした「高校魅力化」における首長・教育行政間関係を見取る基礎作業として、都市機能の集中する政令指定都市20市・中核市60市の地方版総合戦略・関連資料、自治体の基礎情報、市立高校の設置有無(県立高校への言及と区別するため)・名称・学科等の情報を収集した。その上で、地方版総合戦略(第2期)における高校への言及を分析した。具体的には、言及の有無を確認し、言及箇所を基本目標、KPI(重要業績評価指標)、数値目標、具体的施策に区分して整理し、地方創生政策下で一般行政部局が教育行政部局の管轄である高校教育にどの程度・どのように関与し、何を期待しているのかの考察に着手した。 2)各自治体教育委員会HP等より「高校魅力化」施策を収集し傾向を捉えた上で、特徴的な事例県を新たに選定し、実地で資料収集を行った。その際、自治体・学校の「魅力化」施策の在り方を制約する、各校の文化や歴史、自治体特有の「高校教育制度」の在り方に関わる史料(禁帯出)も収集するなど重点的な調査を行った。 3)「高校魅力化」施策の形成・実施の過程を分析し得る理論枠組みの検討を行った。「高校魅力化」が他機関との連携・調整を必要とすること、そもそも高等学校では同窓会等の学校関係者が当該校に与える影響が大きいことから、それら多様な関係機関(組織)・者の関係性(各自治体教育行政、各高校が、地方創生政策をはじめ外からの多様な圧力にいかに戦略的に対応しながら特定の施策を形成したのか)を捉える視座として、組織論、その一派である新制度派組織理論をレビューした。特に、制度的な外圧に対し組織が取り得る戦略的対応に関し提示された理論枠組みが、政治・一般行政と教育行政との関係に注視する本研究に適合的であると考えられた。 なお、より広く高校教育制度研究への新制度派組織理論の適用可能性について九州教育経営学会で報告し、貴重な意見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の影響下で、遠方の自治体への実地調査の自粛や、公共施設(図書館等)が使用できない時期もあるなど、研究遂行は困難を期したが、研究計画を柔軟に調整し取り組んだことにより、むしろ本研究を深化させるために必要な研究・作業進捗を生むことができたと考えている。また、九州教育経営学会での報告では、教育経営学研究者から理論の捉えの精緻化につながる多くの貴重な助言・意見を得ることができた。また、大会と交流会への参加を通して、高校の現職教員や関係者との関係構築にも努めた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、特に地方創生政策下の「高校魅力化」施策を教育行政学の見地から検討するものである。最終年度である本年度は上記の進捗を踏まえ特に次の作業に取り組む。 1)COVID-19感染拡大状況に留意しながら、特徴的な事例県へ出向きキーパーソンへのインタビュー調査、資料収集を行う。 2)収集した資料を基に分析と考察を行う。本年度は理論枠組みを精緻化した上でその視座に基づき「高校魅力化」施策の形成・実施過程における首長・一般行政-教育行政間関係を分析及び考察する。 3)「高校魅力化」施策は、地方教育行政・学校と他機関(組織)・多様なステイクホルダー間の連携・調整(coordination)を経て形成される。また、翻って「高校魅力化」に関係する中央レベルの政策動向は、地域と学校の協働を推進しようとする教育行政だけでなく、教育行政への外からの政策圧力から成る。本研究は特に地方創生政策に焦点化していたが、令和2年以降のCOVID-19の影響下にあって「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して」(中教審答申)のようなICT化、個別最適(経産省「未来の教室」では個別最適化)な学びの推進のようにさらに異なる多様な政策意図が「高校魅力化」に含み込まれ展開している現状にある。そのようななかで形成される施策は、教育的な論理とは異なる価値との対立・葛藤、その調整を経て形成されると推察される。それらが各自治体の高校教育(「制度」)の在り方にどのような変化をもたらすのか、制度原理的な観点からの考察も行いたい。その際、高校階層構造やジェンダー・トラックといった従来の高校教育批判の視点も踏まえる。なお高校教育の提供構造は自治体により特徴と歴史性を有すため、そういった地域的特質を理解するための史料収集も引き続き行う。 これまで及び上記より得られた研究成果を取りまとめ学会発表及び論文投稿という形で結実させる。
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