研究実績の概要 |
細胞外マトリクス(ECM)は,細胞が住む“家”であり,ヒアルロン酸(HA)を主成分とするハイドロゲルで ある.ヒアルロン酸にはタンパク質や糖鎖が結合し複合化・構造化されている. 近年の知見から特に創傷治癒の過程において,HAハイドロゲルが「仮の家」として, 大きな役割を担うことが明らかになってきた. 一方で生物学の発展によってHA結合タンパクの機能や役割が明らかになってきており, 医療・バイオ分野への応用が期待されている. そこで本研究では, HA結合タンパクの一つであるTSG-6に着目し, 天然のECMを模倣したハイドロゲルの開発を目的とした. 本年度は,まず微生物由来トランスグルタミナーゼ(MTG)反応性tagを持つ機能化リンクモジュール(LinkCFQ)の発現に関して分子シャペロンとの共発現系及び菌体株の検討を行い,最大で5 mg/L cultureスケールの安定した精製系を確立した.さらに,精製タンパクのヒアルロン酸(HA)結合能を等温滴定カロリメトリー(ITC)により定量的に評価し,pH依存的なHA結合能を示すことを確認した.さらに,HAとゼラチン,LinkCFQ,MTGの混合系において,貯蔵弾性率(G’)が約200 Pa程度の脳組織等の軟部組織と同等の堅さを持つハイドロゲルの作製に成功した.実際に,ゲル上でヒト腹膜中皮細胞が接着及び増殖することを確認した.またマウス皮下へのゲル投与では,3日後にはゲルの残存は見られず,組織学的な評価によっても顕著な免疫応答性は確認されなかった.以上より本研究で開発したゲルの生分解と生体適合性が確認され,組織工学及び再生医療分野においてその応用が期待される.
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