日本食に含まれる米の胚乳の外側の『米ぬか』を摂取すると大腸炎が抑制されることが報告されているが,詳細な分子メカニズムは明らかにされていない.申請者は米ぬかが腸内環境全体に与える影響を明らかにするために,網羅的な解析を組み合わせたマルチオミクス解析とバイオインフォマティクスによって米ぬか摂取による腸内環境の変化を理解することを目的とした.これまでに大腸炎抑制に重要な米ぬか成分,腸内細菌,代謝物質,宿主の受容体を示した一方で,これらをつなぐより詳細な分子メカニズムが未解明のままであった.そこで本研究では,①大腸炎抑制細菌を増加させる米ぬかの食物繊維構造,大腸炎抑制細菌を介した②大腸炎抑制代謝物質の産生経路,その代謝物質の③宿主の受容体の局在とその後の④宿主の遺伝子発現変化を明らかにすることで,これまで曖昧に理解されていた栄養学と腸内細菌学を統合した,腸内環境栄養学という学問分野の立脚を目指した.本年度は米ぬか摂取によって増加する腸内細菌の単離を行なった.昨年度までにこの腸内細菌がマウス腸内でより増加する条件を検討してきた.本年度はこの腸内細菌が増加したマウスを作成し,便を採取して,単離培養を試みた.単離培養された菌は全て16S rRNA遺伝子の配列解析によって細菌種を特定した.しかし.いずれの腸内細菌が定着したノトバイオートマウスでも大腸炎抑制に重要な代謝物質は増加せず,大腸炎も抑制されなかった.一方で大腸炎抑制に十分な腸内細菌群を特定することができ,大腸炎抑制に重要な代謝物質を腸内細菌とマウス細胞の共代謝によって産生される可能性を示すことができた.今後は米ぬか摂取マウスや大腸炎抑制効果のあった腸内細菌群定着マウスで多く,通常食摂取マウスでは少ない細菌を明らかにするために,これらのマウス便の比較メタゲノム解析を実施する.
|