現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は以前、過剰な鉄と硫黄を加えて[4Fe-4S]を再構成し、決定した[4Fe-4S]-TtuA-TtuB複合体の構造に基づき、TtuAはTtuBから硫黄を受け取ることを明らかにした(M. Chen, et. al., PNAS, 2017; M. Chen, M. Ishizaka, et. al., Commun. Biol., 2020)。しかし、ヒトを含めた真核生物でTtuAに相当するtRNA硫黄修飾酵素Ncs6では、[4Fe-4S]を利用するという報告とユニーク鉄を失った[3Fe-4S]を利用するという報告の両方があった。すなわち、「よく似たtRNA硫黄修飾酵素に、異なる鉄硫黄クラスターが使われるのは本当か?」という生物学的な問いがあった。 EPRを利用した鉄硫黄クラスターの構造解析では、酸化還元条件を検討し、[3Fe-4S]が数十分間で自発的に[4Fe-4S]に変化することを発見した。次に、不安定な[3Fe-4S]-TtuAの酵素活性を調べるために、TtuA濃度・TtuB濃度・反応時間・反応温度を検討し、短い反応時間でTtuAの酵素活性を測定できる条件を見出した。HPLCを利用してTtuAの生成物を定量し、[3Fe-4S]-TtuAには酵素活性がないことを証明した。 本成果は活性化TtuAが[4Fe-4S]型か[3Fe-4S]型かを明らかにしただけでなく、Ncs6を含むtRNA硫黄修飾酵素は一般的に、[4Fe-4S]を利用してtRNA硫黄修飾を触媒することを提案した。また、鉄硫黄クラスターを持つ酵素一般において、酸化還元を厳密に制御し、鉄硫黄クラスターの構造と酵素活性の相関をタイムコースで解析しなければ、誤った反応機構の結論を導いてしまうという危険性を提唱した。 以上より、本研究は「おおむね順調に進展している」と考える。
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