我々は昨年度、2-チオウリジン合成酵素TtuAに結合した鉄硫黄クラスター構造とTtuAの酵素活性を経時的に相関解析し、活性型TtuAは[4Fe-4S]鉄硫黄クラスターのみ持つことを明らかにした。今年度は、これらの結果を査読あり国際誌International Journal of Molecular Sciences誌に発表するとともに、TtuAのtRNA活性化機構(アデニル化tRNA合成機構)の解明を目指した。 TtuA-tRNA複合体の精製は困難だったため、TtuAの結晶に基質塩基5-メチルウリジン(m5s2U)またはUMP、さらにATPをソーキングし、X線結晶構造解析に取り組んだ。その結果、分解能2.5 Å程度で[4Fe-4S]-TtuAとATPまたはADPとの複合体の電子密度を得た。これらの構造は、TtuAがATPをADPに加水分解し、tRNA活性化に利用する可能性を示唆している。一方で、ATPを利用した時のTtuAの酵素活性(m5s2U合成活性)に比べ、ADPを利用した時の酵素活性は約3割しかなかった。したがって、tRNA活性化にATPが直接使われるか、ADPが使われるかを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。 次に我々は、TtuAと基質塩基との相互作用様式を明らかにするために、tRNAリシジン合成酵素TilS-tRNA複合体の構造に基づき、TtuA-m5s2U-ATP複合体のモデル構造を構築した。さらに、このモデル構造に基づいて8種類の変異体を作成し、HPLCでTtuAの酵素活性を解析した。その結果、R138A変異体の酵素活性が完全に消失した。我々のモデル構造では、Arg138はm5s2Uのリン酸基と相互作用しており、TtuAファミリー内で完全に保存されている。したがって我々は、Arg138がTtuA-tRNA複合体形成に必須であると結論付けた。
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