本研究は反強磁性体における強トロイダル分域壁のダイナミクス及び磁気的性質の解明を目的としている。本年度は反強磁性体MnTiO3を舞台とし、電磁場によって駆動された強トロイダル分域壁のダイナミクスを研究した。当該物質においては、印加した電場・磁場の積によってトロイダル双極子の向きを制御でき、さらに強トロイダル分域パターンを透過イメージングで観察可能である。そこで、定常磁場下で印加電場を変化させつつMnTiO3の強トロイダル分域パターンを観察し、その分域壁のダイナミクスを調べた。結果、以下3点が明らかになった。(1)強トロイダル分域の準静的反転過程において、分域壁の運動にある程度のメモリー効果があることを明らかにした。電場を正負に複数サイクル掃引した際、強電界領域では単一分域状態が実現され分域パターンが初期化させるにもかかわらず、抗電界付近では似たような中間状態が繰り返し観察された。(2)ステップ関数的に電場を反転した際に、二種の単一分域状態が100ミリ秒程度で移り変わる過程の観察に成功した。ミリ秒スケールの反転過程は分域壁の駆動によって達成され、核生成などからの寄与は観察されないことを明らかにした。(3)強トロイダル分域壁の速度の電場、温度依存性を詳細に測定した。分域壁の速度は、電場が抗電場より十分大きい領域では電場におおむね線形に増大し、その傾きである移動度は磁気転移点付近で発散的に増大することを明らかにした。上記3点の結果は学術雑誌に発表した。
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