本年度は低次元のラージNゲージ理論の有限温度相転移の文脈で確立されてきた「部分閉じ込め」現象の定式化を拡張してより一般的な理論に適用可能にする研究に取り組み、当該・周辺分野の既存概念との関係性・相補性や今後の応用について検討・議論した。さらに本年度は得られた研究成果を国内外の研究会で発表する機会に恵まれ、従来の研究の方向性に加えて、分野を超えた学際的な議論へと発展させる活路を見出せた。 部分閉じ込めはこれまでラージN極限(カラー自由度が無限大の極限)の下での理論の自由エネルギーの振る舞いという静力学的な性質による特徴づけが与えられてきた。具体例を用いて研究を進める際にも弱結合領域で構成された理論で考えることが多く、相互作用の強い場合や空間の拡がりを考慮に入れる場合といった動力学的な効果が顕著な場合にも、部分閉じ込め相が現象として生き残るかが非自明である。さらに従来の設定を超えて、カラー自由度Nが有限な系でも同様の現象がどう実現されうるかも興味深い課題であった。我々は行列場の空間での波束の概念の適用や格子正則化とその連続極限の議論によって現状の定式化を拡張し、前述のような動力学的性質を反映させられる定式化の構築を進めた。さらに並行して、Nが3の場合の計算にあたる格子QCDの数値データを利用した現象論的な研究にも着手した。これによりラージN極限下で予言された定性的振る舞いが、我々の世界に非常に近い設定でどれだけ反映されうるかを明らかにしようとする最中である。 また国際共同研究プロジェクトにて、BFSS型行列模型の格子モンテカルロ計算の研究にも参画した。先行研究で調べられていた温度領域からより低温で計算困難な領域を精細に調べ、得られた結果とゲージ/重力対応からの予言とを定量的に比較した。今後本手法を通じて、行列模型から超弦理論や背後のM理論の性質が捉えられる可能性がある。
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