木材価格の低迷によって日本の人工林は生産林としての重要性が小さくなっている。そのため、人工林の多面的な機能を理解していくことは、持続可能な森林管理を実現するために必要不可欠である。野生動物への生息地提供は、人工林の重要な生態的機能であり、多くの研究で人工林の利用実態が調べられてきた。これまでの研究では、野生動物の人工林利用における季節差が考慮されていなかったため、本研究では、哺乳類と鳥類による人工林利用の季節変化を明らかにすることを目的とした。
知床国立公園内のカラマツ人工林8地点に5月から9月にかけて自動撮影カメラを設置し、野生動物による人工林利用パタンの季節変化を明らかにした。先行研究より自動カメラを設置したカラマツ人工林はコエゾゼミの羽化量が多いことがわかっているため、コエゾゼミの羽化タイミングに応じて人工林利用の季節変化が説明されると予測した。データ解析は撮影頻度が最も高かったヒグマ・キタキツネ・ハシブトカラスで実施した。結果、3種共に5月から7月まで人工林を利用していた。セミの羽化は7月に完了し8月以降は終齢幼虫を捕食できないため、このような季節性が見られたと考えられた。ヒグマは5月から7月にかけて一貫して人工林を利用していたが、キツネとカラスは7月に集中した人工林利用が見られた。地面を掘る力が強いヒグマは、セミ幼虫が地下にいる季節でも捕食できる一方で、掘る力が弱いキツネ・カラスは、セミが羽化のために地表に現れる7月に集中して捕食しているためであると考えられた。 この結果より、野生動物の人工林利用の季節パタンは、動物の捕食能力と餌のフェノロジーによって決まることが示唆された。研究成果は国際誌The Science of Natureに掲載された。
|