研究実績の概要 |
σ結合を伴わずπ結合のみからなる単結合(π型単結合)を持つ1,3-ジクロロビシクロ[1.1.0]テトラシラン1の求核置換反応により、含π単結合π共役分子の合成を行った。化合物1に対して低温条件下でリチウムアセチリドを作用させることで、橋頭位ケイ素上に対応するエチニル基を持つビシクロ化合物が中程度の収率で得られた。今回の結果は、π単結合化学種の直接的なπ拡張に成功した初めての例である。 合成した化合物は、X線結晶構造解析および理論計算から橋頭位ケイ素間にπ単結合を持つことが示された。また、これらの化合物の固体状態における吸収極大波長は、π型単結合を持つ1,3-ジヨードビシクロ[1.1.0]テトラシランよりも大きく長波長シフトしており、このことからπ単結合とエチニル基の間にπ共役が存在していることが明らかになった。一方、今回合成した含π単結合π共役分子は固体状態と溶液中で色が変化することが明らかになった。各種分光学的測定および理論計算の結果から、これらの化合物は固体状態では平面構造であるのに対し、溶液中では平面構造とシスベント構造の平衡状態として存在していることを突き止めた。この結果はπ単結合が高い柔軟性を持つことを示しており、このことからπ単結合を含む骨格は狭いHOMO-LUMO準位差と高い感受性を持つ共役ユニットとして利用できることが示唆された。 また、含π単結合π共役分子の新たな合成法を模索する中で、1の前駆体である二環式化合物(テトラシラビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エン)と水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)の反応より、開環を伴ってシクロプロペニドのケイ素類縁体(シクロトリシレニド)が生成することを見出した。これまでにシクロトリシレニドの合成は報告されておらず、今回が初めての例であった。
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