研究課題/領域番号 |
21J13082
|
研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
佐野 宙矢 東京農業大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | 精漿 / 自然炎症 / NLRP3インフラマソーム / マクロファージ |
研究実績の概要 |
1年目では「NLRP3が精漿免疫応答の制御に重要である」という仮説を検証するため、NLRP3を欠損したことで精漿によるシグナル機構が破綻するのか(雄側要因)、細胞応答のセンサー機構が破綻するのか(雌側要因)について検討した。まず、NLRP3が妊娠の成立や維持に重要であるのか検討するため、野生型およびNLRP3欠損型マウスの雌雄を組み合わせた交配実験を行った。その結果、NLRP3欠損型雄マウスと交配した野生型およびNLRP3欠損型雌マウスでは妊娠継続率が低下し、NLRP3欠損型雄マウスと交配した妊娠非継続個体の子宮内では胚の着床痕は観察できなかった。また、NLRP3が精漿免疫応答を制御するのか検討するため、交配半日後に解剖を行うと、NLRP3欠損型雄マウスと交配した雌マウスの子宮内では、炎症性サイトカインmRNA発現が増加した。このことから、NLRP3は精漿免疫応答を制御することで妊娠成立に重要な働きをしている可能性が示唆された。 NLRP3欠損により精漿免疫応答が変化する要因として、①精漿成分の変化=シグナル機構の変化、②細胞応答性の変化=センサー機構の破綻を想定した。仮説①の検証の結果、NLRP3欠損型雄マウス由来の精漿内のサイトカインのバランスや、含有タンパク質が異なることを見出した。このNLRP3欠損型精漿の成分の変化が妊娠率を低下させる要因であるのか、また精漿成分が炎症を制御するメカニズムは次年度に検証を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では、NLRP3が妊娠の成立に重要であることを明らかにした。NLRP3欠損型雄マウスと交配した野生型雌マウスの子宮内では、炎症性サイトカインのmRNA発現が増加したことから、NLRP3が精漿免疫応答を制御していることを見出した。また、NLRP3欠損により精漿成分が変化することも見出したことから、当初の計画通り一定の成果を得られたと考えている。次年度では、野生型およびNLRP3欠損型精漿を子宮組織や免疫細胞(骨髄マクロファージ等)に添加を行い、反応性の違いが精漿成分に起因するのか、検証を行う予定である。さらに、精漿中タンパク質が炎症を制御する機序についても検証を進める。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はNLRP3欠損型精漿が妊娠継続率の低下する要因であるのかを検証するため、野生型雌マウスの子宮内に野生型またはNLRP3欠損型雄由来の精漿を直接投与し、その後野生型雄マウスと交配させ、妊娠継続率や着床数を比較する。これと並行し、精嚢腺除去マウスの作製も進め、精漿成分の重要性について検討する。 得られた結果を基にして、次の研究段階では精漿中タンパク質が精漿免疫応答を誘導する機序を検証する。本研究では、「精漿内に分泌されたタンパク質が雌側の細胞にセンシングされ、妊娠免疫寛容に向けた精漿免疫応答が起きる」という仮説を中心に解析を進めている。これまでの研究結果から、NLRP3欠損型雄マウス由来の精漿内のサイトカインのバランスが異なることを見出した。そこで精漿タンパク質の炎症制御機構について検証するため、子宮組織や骨髄マクロファージを使用したin vitroでの実験を行う。 また、NLRP3欠損型マウスの精子・受精・発育能力や胚由来シグナルが低下することも想定される。そこでin vitro で精子能力(運動性や生存性等)や体外受精率、胚盤胞形成率なども並行して検討する。
|