本研究課題では「NLRP3が精漿免疫応答を制御することで妊娠成立を促進させる」という仮説を検証してきた。雄個体においてNLRP3の欠損が胚に及ぼす影響を検証するため,野生型雌マウス由来の卵子に野生型またはNLRP3欠損型雄マウス由来の精子と体外受精させると,受精率および胚盤胞発生率に違いは見られなかった。この結果から,NLRP3の欠損が精漿成分および精漿免疫応答に影響を及ぼすことで,妊娠に影響を与えるのか検証した。 NLRP3欠損型マウス由来の精漿成分が妊娠率に影響する可能性を検証するため,精嚢腺除去マウスを野生型マウスと交配させた。精嚢腺除去マウスと交配させると,雌個体の妊娠は成立しなかった。あらかじめ子宮内に野生型マウス由来の精漿を投与した後,精嚢腺除去マウスと交配させると妊娠率が回復する傾向を示した。一方,NLRP3欠損型マウス由来精漿を投与した場合,精嚢腺除去マウスの交配に伴い低下した妊娠率は回復が見られるものの,野生型精漿投与群の妊娠率よりも低い傾向を示した。 野生型マウス由来の精漿中に含まれるNLRP3タンパク質の作用を検証するため,リコンビナントNLRP3を骨髄由来マクロファージ細胞に添加すると,炎症および抗炎症型マクロファージの分化マーカーの発現が変動した。 以上から,NLRP3はマクロファージの分化を介して精漿免疫応答を制御することで妊娠成立を促進する可能性が考えられた。
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