昨年度のタテボシガイのアオコに対する水質浄化ポテンシャルの試算ではアオコ発生時を想定していたが、本年度はアオコ発生初期における試算を行った。アオコ発生初期を想定した藻類低濃度条件(2 mgC/L)におけるタテボシガイの藍藻資化速度は3.5 mgC/個体/日であり、現状のタテボシガイによる水質浄化ポテンシャルは、推定現存量と資化速度を掛け合わせ、1日あたり0.46 kgCと試算された。一方で、アオコ発生初期の八郎湖全層におけるアオコ由来の炭素量は7200 kgCであり、現状の密度ではアオコ抑制は困難であることが示された。 また、密度調査の結果から、タテボシガイは中砂(126~250 マイクロメートル)を多く含む底質を好むことが明らかになり、中砂を多く含むエリアは、八郎湖の湖面積の約25%、7.9平方キロメートルに相当することが明らかになった。タテボシガイの分布拡大が期待される八郎湖25%面積に25個体、50個体、100個体のタテボシガイの定着が達成できたと仮定すると、アオコ由来の炭素を全量資化するのにかかる日数は、それぞれ、10日、5日、3日と試算された。したがって、タテボシガイの密度を増強できれば、アオコ抑制に資することができると期待された。 さらに、当初の計画には位置づけられていなかった稚貝の着底状況を調査する手法の検討では、新たにタテボシガイに種特異的な核DNAのITS領域を増幅するプライマーセットを設計した。核DNAマーカーは、従来のミトコンドリアDNAマーカーと比較して、最大で数千倍の環境DNAコピーを定量できることが明らかになり、現場での検出に課題は残されているものの、従来の手法を改善することができた。
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