医薬品候補化合物の安全性を高精度に評価可能な肝細胞アッセイ系の実現を目指して、しなやかなハイドロゲル膜足場を用いた新規スフェロイド培養系の構築を目的とする。市販ポリマー試薬を用いて、hydroxypropyl cellulose(HPC)から成る自立浮遊ハイドロゲル膜の簡便な作製法を開発した。架橋HPCの架橋密度や犠牲層の厚さを調整することにより、柔軟かつ安定した浮遊膜を作製できることが示された。また、光応答性のcoumarinを側鎖に持つpoly (methyl methacrylate)を膜上にコート後、ドットパターンの紫外光を照射することにより、膜上で任意の大きさ及び間隔でHepG2細胞から成るスフェロイドアレイを調製、目的の自立浮遊スフェロイド培養系を構築した。構築した培養系の有用性を確認するために、ハイドロゲル膜については上記浮遊条件と基材に固定された条件、培養細胞についてはスフェロイドアレイ条件と単層条件から成る計4通りの培養系を用意した。ディッシュを左右交互に傾けることで培地の対流を促しつつ培養を行い、培養15日後における細胞のグルコース産生量に対する乳酸産生量の比率(L/G)と、肝特異的な薬物代謝酵素CYP1A2に関するmRNA発現量を測定した。その結果、浮遊膜上では、固定膜上と比較して有意に好気的で、CYP1A2発現量も有意に高かった。さらにスフェロイドアレイ培養系は、単層培養系よりCYP1A2発現量が有意に高いことが確認された。よって、本研究で新規に提案した自立浮遊スフェロイド培養系が4つの培養条件の中で最も高いCYP1A2発現を示し、HepG2の肝特異的機能の亢進に寄与することが実証された。本研究より、動物試験代替法の新たな技術開発に貢献し得る重要な知見を得た。
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