研究課題/領域番号 |
21J13157
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中野 利沙子 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 高速ノックダウン / 嗅覚神経回路 / 神経活動 |
研究実績の概要 |
発達期の嗅細胞では、自発的な神経活動が嗅細胞の精確な軸索投射に不可欠である。嗅細胞は、単純な活動の有無ではなく、活動の経時的な変化である「神経活動パターン」を読み取って、軸索投射を制御していることが明らかとなっている。また近年、神経活動パターンは細胞種ごとに共通していること、そして、共通した神経活動パターンによって共通した遺伝子群の発現が誘導され、これによって精確な軸索投射が実現することが解明されてきた。 しかしながら、神経活動パターンという時間情報を細胞がどのように読み取り、特定の遺伝子の発現という分子情報へと変換しているのかは明らかではない。先行研究から、活動電位の発生に伴って細胞内に流入するカルシウムイオン(Ca2+ )が遺伝子発現に重要であることがわかっている。そこで我々は、Ca2+依存性のシグナル伝達分子に着目し、この変換機構を明らかにすることを目的として研究を行っている。 本研究では、嗅細胞での発現が確認されたCa2+依存性のシグナル伝達分子のうち、単純なノックアウトでは個体の死や分化異常を引き起こす遺伝子の解析を行う。これらの遺伝子が神経活動パターンのデコーディングに関与しているかどうかを知るために、発達の特定の時期特異的に標的遺伝子をノックダウンし、軸索投射及び細胞の遺伝子発現にどのような影響が生じるかを明らかにする。 当該年度では、時期特異的なノックダウン手法としてAuxin inducible degron(AID)法が神経細胞の培養系において有用であることを受け、このノックダウン手法をin vivoの神経細胞に導入することを試みた。その結果、標的タンパク質を4時間以内にノックダウンすることに成功した。従来のノックダウン手法の時間的制約により、発達期の一過的な分子発現やその機能発現を特異的に阻害することは困難であったが、本手法の導入はこの問題を解決した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は(1)AID法のin vivoへの導入と(2)遺伝子改変マウスの作成を目標としており、研究の遂行により(1)を達成した。 (2)に関しては遺伝子改変マウスの作成にかかる金銭・時間的コストを削減する目的から、アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用したゲノム編集を試みており、AAVの嗅細胞への導入法の開発、導入プロモーターの検討などの条件検討を終えている。この導入手法は世界初であるが簡便なため、今後の普及が期待できる。以上から、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はAAVゲノム編集を通じて(3)軸索選別分子の発現を制御するシグナル伝達分子の同定と、(4)特定のシグナル分子を活性化する神経活動パターンの同定を行っていく。すでにいくつかのシグナル伝達分子に関しては(4)が進行中である。また、嗅細胞の細胞種特異的なマウス系統を作製し、細胞種依存的な神経活動パターンの抽出も行っていく。
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