研究課題
本研究では、電離圏に発生する金属イオン層の動態を明らかにすべく、金属イオンの物理と化学過程を組み込んだ電離圏3次元数値モデルの開発を進めてきた。本モデルは中緯度域(日本上空)でライダーにより観測された夜間金属イオン層の構造の日々変動を初めて再現することに成功しており、今年度は他地点での金属イオン層の再現度の調査と、再現された金属イオン層の3次元構造の解析を実施した。得られた実績は以下の2点である。(1)再現された金属イオン層の3次元構造を解析することにより、その3次元的な空間発展を初めて提唱した。金属イオン層は形成時には東西風のシアの節に拘束されるように存在している。これは従来のウィンドシア理論で予見されることである。その後、金属イオン層は潮汐波の位相と共に降下運動を示す。その際、イオンと中性大気との衝突が増えるため、金属イオン層の降下運動が阻害され、東西風のシアの節の降下に比べて遅れ始める。これによって、金属イオン層は鉛直圧縮の強い領域から外れ、水平風による輸送効果を受け始めることを見出した。(2)低緯度域(アメリカ・プエルトリコ上空)でレーダーによって観測された金属イオン層の構造の日々変動を初めて再現することに成功した。低緯度域では1日潮汐波と半日潮汐波の双方の日々変動が金属イオン層の日々変動に影響を及ぼしていた。また、1日/半日潮汐波の日々変動を比較して、半日潮汐波の日々変動の方が金属イオン層の動態に顕著な影響を与えていた。これら2つの成果は国際雑誌に掲載済みである。
2: おおむね順調に進展している
金属イオンの化学と物理過程を組み込んだ電離圏数値モデルの開発はおおむね終了し、その再現度の検証も多地点で実施することができた。この検証に付随して、金属イオン層の日々変動が生じる物理機構を明らかにすることに成功した。また、シミュレーション結果を解析することにより、金属イオン層の3次元構造の時間発展を初めて提唱できたことも理由として挙げられる。本研究で明らかになった金属イオン層の3次元的な動態は、今後の金属イオン層の研究において、より金属イオン層の深い考察を可能にするものと考えられる。また、成果物として2本の論文が国際雑誌が掲載された。ゆえに、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
今後の研究では、(1) 金属イオン層の水平移動の地方時依存性と(2) 金属イオン層に対する電場の影響の2点について注力していく予定である。(1)に関しては、過去の観測により金属イオン層の水平移動は食い違う結果が得られている。これは3次元的な観測がなく、金属イオンの時間発展と空間発展を混同してしまっているためであると考えられる。本研究で開発した数値モデルにより、3次元的に金属イオン層の水平移動を評価していきたい。(2)に関しては、金属イオン層の動態に対しては風の影響が大きく、電場の影響は無視できると従来考えられてきた。しかし一方で、特に中緯度域電離圏において、電場の影響を調べた研究は少ない。本研究で開発したモデルは、風と電場の双方の影響を評価することができるので、金属イオン層の動態と電場の関係について新たな知見をもたらしうると考えられる。
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Geophysical Research Letters
巻: 49 ページ: e2021GL097473
10.1029/2021GL097473
Journal of Geophysical Research: Space Physics
巻: 126 ページ: e2021JA029267
10.1029/2021JA029267