研究課題/領域番号 |
21J13196
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前 匡鴻 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 制御工学 / モーションコントロール / 精密位置決め制御 / 多入力多出力系 / 外乱抑圧 / ロバスト制御器設計 / データ駆動型自動設計 / 凸最適化 |
研究実績の概要 |
半導体や液晶パネルの製造に用いられる露光装置に代表される精密位置決めステージは、ナノメートルオーダの誤差精度という厳しい性能要求から、複数のアクチュエータとセンサを用いた複雑な多入力多出力系のシステムとなっている。複数アクチュエータとセンサを用いた制御器はその分調整パラメータも多く、近年の日本の労働人口の減少という社会背景の中、それらの複雑な製造装置の制御器のパラメータ調整の負担が課題とされてきた。2021年度は、複数アクチュエータとセンサを用いた多入力多出力系の超精密位置決め制御対象に対して、外乱を抑圧し誤差を低減するフィードバック制御器の自動調整の研究に取り組んだ。多入力多出力系の制御対象は、各軸の干渉の存在からモデル化を行うことが難しいことが課題とされてきた。本研究では、制御対象の周波数応答データとスキャン動作時の誤差データから、モデル化を行わず直接データ駆動で制御器を自動調整する手法を提案した。外乱周波数に合わせたピークフィルタを複数設計するロバスト制御器設計問題を、制御性能を評価関数、安定性を制約条件として立式し、ピークフィルタの構造を保ったまま凸最適化できる定式化を行った。それにより、従来はエンジニアが手動で数日かかっていた調整過程が、提案した繰り返し凸最適化計算によりたった数分で実現されるようになった。また、従来の制御器自動設計と異なり構造化したまま制御器を最適化していることから、最適化後の制御器の物理的解釈も容易であり、工場など実際の現場でそこからさらにマニュアルでパラメータを調整することも可能であるという実用的な利点も持つ。提案した最適化手法で設計された制御器は、実際に共同研究先企業の露光装置に実装され、従来手動で設計されてきたフィードバック制御器と比較して制御性能の改善が確認された。今後、実際の製品への実用化も期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は、多入力多出力の精密位置決め制御対象に対して外乱を抑圧する複数のピークフィルタの凸最適化自動調整手法を、多入力多出力系の制御性能の面から定式化することを行った。計画では、許容できる誤差の範囲や安定余裕といったロバスト安定性などの制御器が満たすべき条件を定式化することを考えていた。研究を進める過程で、データ駆動型設計の利点を活かし、繰り返し凸最適化の各反復における多入力多出力系の軸間干渉も考慮した複数スキャン領域の誤差の推定値を評価関数として用いることを可能とした。これにより、当初の計画で考慮していた多入力多出力系のロバスト安定性だけでなく、多入力多出力系の制御性能も考慮した定式化を提案することができた。この定式化は、当初の計画立案時にはなく、計画以上の進展であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、本研究課題のもう1つの柱であるモデリングとマルチレート制御を融合した多入力多出力のフィードフォワード制御器設計の自動化に取り組んでいく予定である。精密位置決め制御系は、外乱抑圧を担うフィードバック制御器と軌道追従を担うフィードフォワード制御器の2自由度制御により構成され、2021年度の研究が外乱抑圧のためのフィードバック制御器設計、2022年度の研究が軌道追従のためのフィードフォワード制御器設計に該当する。従来のフィードフォワード制御は制御対象のモデルの逆系を用いることにより設計されるが、現実の制御対象と制御器設計に用いられるモデルの間にはモデル化誤差があり、制御性能の限界の一因となっていた。本研究では、モデルを実験データから更新していく学習制御を導入することにより、制御性能の限界を押し上げることを目指す。また、制御対象の機械的特性を考慮したマルチレート制御を学習制御に取り入れることにより、物理的な妥当性を持つデータ駆動型設計を可能とすることを目標としている。
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