研究課題/領域番号 |
21J13197
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
相場 郁人 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | 空間経済学 / 都市経済学 / 地域経済 / 観光 / インバウンド需要 |
研究実績の概要 |
コロナ禍以前、観光業は世界で最も成長の著しい産業の1つであり、日本においても2019年までの10年ほどでインバウンド観光客は大幅に増加した。現在、コロナ禍からの経済復興のための政策として観光業の振興などが注目を浴びる中、観光業が地域経済や住民の厚生に対して持ちうる効果を定量的に把握することは、重要な意義を持つと考えられる。 本プロジェクトの一環として、“Tourist Flows and the Spatial Economy: A Quantitative Analysis of Japan”と題した論文では、観光による人的流動を考慮した空間均衡モデルを構築した上で、観光庁により公表される「宿泊旅行統計調査」の結果などを利用してモデルのカリブレーションを行うことにより、国内観光客およびインバウンド観光客の存在が総生産や厚生水準に対していかなる影響を持ちうるのかを数値シミュレーションにより分析した。 本論文では、国内観光客の存在は厚生水準に対して大きな影響を持つのに対し、インバウンド観光客は微小な影響しか持たないことが示された。一方、観光GDP(観光関連産業により計上される付加価値額)に対しては、国内観光客よりもインバウンド観光客が大きく貢献していることが明らかとなったが、この効果はインバウンド観光客が多く訪れる一部の地域に限定されており、地域間の差異が大きいことも判明した。 本論文の成果は、第35回応用地域学会研究発表大会、および東京大学のUrban Economics Workshopにおいて口頭発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の当初の予定は分析のフレームワークとなるモデルの構築、および現実の統計データを用いたパラメータの推定がメインであった。これらは概ね計画通りに進み、成果もワーキングペーパーにまとめた上で、学会やセミナーでの口頭発表も行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
観光を目的とした地域間の人の流れや、それに伴う生産・消費行動といった側面を組み込んだ空間経済モデルを応用し、個々の地域の経済活動や厚生水準に関して前年度よりも踏み込んだ分析を行う。例えば、新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックによるインバウンド観光客の大幅な減少がもたらした効果や、その影響から立ち直る手段として着目されている国内観光の促進による効果などについても、定量的に把握することを試みる。 また、よりミクロな都市スケールでの観光問題を分析するために、日本国内の都市における行財政データや地価データなども利用しつつ、オーバーツーリズムの問題に対して理論・実証の両側面から経済学的にアプローチすることも目指す。 研究成果はワーキングペーパーにまとめた上で学会やセミナーで報告し、経済学や地域科学の国際的な専門誌に投稿する予定である。
|