2020年以降、新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受けて国内・国外ともに観光需要は低迷したが、その状態から大きく復調している現状において、観光需要の増加が地域経済にもたらす効果を一般均衡のフレームワークに基づいて定量的に把握できるよう試みることの意義は増大していると言える。 前年度の研究では地域間の観光流動を考慮に入れた空間経済モデルの枠組みを構築して分析を行ったが、本年度はその枠組みを改善したうえで、使用するデータの種類やパラメータ等の推定手法を更新する形で追加的な分析を行った。その際、特にインバウンド観光客の短期的な経済効果の地域差に焦点を当てた。結果の概略としては、大都市部や観光資源の豊かな一部の地域では、インバウンド観光客の増加により厚生水準の減少が見込まれ、その他の多くの地域では厚生水準の増加が見込まれることが分かったが、いずれの地域でも定量的な効果は小さなものであることも判明した。本研究の成果は博士学位論文の一篇としてまとめた。 また、都市外からの消費需要の増加がその都市の産業構造や経済活動に与える短期的・長期的影響について、観光に限らずより幅広い知見を得るために、沖縄本島における在日米軍の存在と基地周辺地域の経済活動の関係について分析を行うこととした。本年度の研究ではその第一歩として、昭和初期から現代に至るまでの沖縄県内の地域ごとの主要経済データをデジタル化し、整備を行った。
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