研究実績の概要 |
実験研究では、古典新星周囲で合成される有機物を再現する実験室有機物、「急冷窒素含有炭素質物質(QNCC)」の研究成果を論文にまとめ、受理された(Endo et al. 2021, ApJ, 917, 103)。本研究成果では、古典新星周囲の有機物放射に特徴的な8um付近の幅の広い構造を再現するためには、アミンの形で窒素が含まれていることが重要であることを示した。また、終焉期の恒星周囲で作られた有機物が、太陽系の始原的有機物に寄与しうるかを調べるために行なった、国際宇宙ステーションを利用したQNCCの曝露実験について、帰還試料の分析を開始した。特に重要な4試料に対して、赤外透過分光分析および赤外ATR分光分析を行い、曝露前後での赤外特性の比較を行った。また、そのうち2試料については、東京大学微細構造解析プラットフォームの共同設備を利用し、自らFIB薄片化を行ったうえで、分子科学研究所極端紫外光研究施設UVSORにて、走査型透過X線顕微鏡(STXM)を用いたX線吸収端近傍構造(XANES)分析も行った。それら初期分析の成果については、日本天文学会2021年秋季年会にて口頭講演を行なった。 観測研究では2019年にすばる望遠鏡中間赤外装置COMICSを用いて取得された、大質量星の終焉期の姿であるWolf-Rayet(WR)星、WR125のデータ解析の成果をまとめた。WR星は、進化のタイムスケールが短いため、初期宇宙で有機物の供給源となる可能性のある重要な研究対象であり、本成果では新たにWR125の周囲で有機物の放射が観測されたことを示した(Endo et al. 2022, ApJ, in press)。
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