代数的楕円K3曲面について、特にその自己同型群の実質的コホモロジー次元(以下、vcd)について調べた。vcdを具体的に計算できるK3曲面の例が少ないため、vcdが計算可能な具体例の構成やその値の取り得る範囲について研究調査した。vcdとモーデル・ヴェイユ群の最大階数が等しいという予想を仮定すると、その特別な場合として、vcdがピカール数より2以上小さいという不等式評価が得られる。この不等式は既に証明が知られているが、幾何学的群論の応用可能性の探索のため、幾何学的群論を用いた議論でこの不等式評価が得られるかを考えた。実際、幾何学的群論の中でも基本的な対象である双曲群の理論を用いることで、モーデル・ヴェイユ群の最大階数が2以上という条件付きではあるが、vcdをそのピカール数で不等式評価することができた。特に、ピカール数が4以上であり、ピカール数とモーデル・ヴェイユ群の階数の差が2になる場合にはvcdがそのモーデル・ヴェイユ群の階数と一致する。 また、楕円的K3曲面については、そのモーデル・ヴェイユ群の階数が0から18までのすべての整数を取り得ることが知られているため、vcdについても同様の問題を考えた。結果、今回示した不等式を利用することで、これまでの楕円的K3曲面の先行研究の中に、vcdが16、17、18となる具体的な表示を持つ例を発見することができた。具体的な表示を与えることは難しいがこの不等式が適用可能な例として、Coxの構成したK3曲面があり、その中にもvcdが計算できる例を見つけることができた。特に、0から18までの任意の整数について、それをvcdに持つような楕円的K3曲面の存在を確認できた。
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