人々が渡し手の選択において参照している規範(ルール)を明らかにするため、日常生活を収録した映像データから手渡しの事例を集め、コミュニケーションの質的分析手法である会話分析の観点から分析をおこなった。2022年度は、前年度の分析をふまえ、物に届きやすい者と受け取り手に物を渡しやすい者とが異なる事例にも注目しつつ、渡し手選択に注目した分析をさらに進め、渡し手選択の規範の定式化をおこなった。その結果、(1)「物に届きやすい」および(2)「受け取り手に物を渡しやすい」という2つの要件を満たす者が渡し手になるという規範が見出された。さらに、この成果に基づき、「環境のアクセシビリティ」のコンセプトを提案した。これは、「届きやすさ」、「聞こえやすさ」、「見えやすさ」など、会話者と環境との関係において定まる、さまざまな環境の特性を指す。現在は以上の成果をまとめ、国際誌に原著論文として投稿するための作業を進めている。また、当該のコンセプトについて学術集会で報告するとともに、渡し手の選択に加えて、発話のアドレス(会話の中で特定の人に宛てたものとして発話を組み立てること)の問題に援用できる可能性についても発表をおこなった。
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