光酸発生剤とは、光照射により酸を発生する化合物でフォトポリマーなどの光技術の基盤で、産業界で広く利用される化合物である。一般的な高分子重合で利用する熱活性化型の開始剤とは異なり、光酸発生剤は光透過する条件であれば非接触的に酸を発生させることが可能で、水溶液、有機溶媒や高分子媒質中の様々な環境で酸の放出が可能である。しかしながら、光酸発生剤から放出される酸はブレンステッド酸に限られ、主な利用方法は単純な酸による反応に限定される。一方で、ルイス酸は重合開始剤としてはもちろん、フリーデルクラフツ反応や向山アルドール反応などの広範な有機化学反応を触媒することが可能で、光によるルイス酸発生は有機化学分野でも高いインパクトを与えられると考えれるが、光酸発生剤が登場して以来ルイス酸の光発生は達成されなかった。申請者はジアリールエテン誘導体の閉環体の高い安定性を利用した、光ルイス酸発生剤「PLAGs」を開発し、ルイス酸触媒反応である向山アルドール反応の光反応開始に成功した。 また、申請者はPLAGsの光反応量子収率の向上を目的とした新規PLAGsの合成を行った。反応点置換基にフェニル基を導入し、フェニルとPLAGsの基本骨格内のナフタレンとの間に働く相互作用を利用して光反応活性コンフォメーションの安定化に成功した。 さらに、申請者はこのPLAGsを利用した不斉向山アルドール反応の達成を目指し、キラルPLAGsの開発を行った。以前までに合成したPLAGsを基本骨格とし、軸不斉を有するPLAGsを新たに合成した。さらに、このPLAGsのキラル分割とキラルPLAGsの評価を行った。キラルPLAGsを利用した向山アルドール反応では、エナンチオ選択的な反応が確認できなかったものの、触媒分子と基質分子に非共有結合性相互作用を利用することでキラル向山アルドール反応を光誘起できる可能性を見出せた。
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