本研究ではゲノム恒常性や概日リズム形成に関与する青色光受容タンパク質ファミリーである光回復酵素・クリプトクロムスーパーファミリーの機能制御機構に着目した。特に、シロイヌナズナ由来の(6-4)光回復酵素 (At64) と、ショウジョウバエ由来のクリプトクロム (DmCRY) の2つのタンパク質に注目した。両者はともに、補因子であるフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)とトリプトファン残基との間で光依存的に電荷分離状態を形成し、その後、FADを還元することが知られている。この光依存的な還元反応が当該タンパク質ファミリーの多様な機能を制御していると考えられている。本研究課題を通じて、申請者はAt64が例外的に安定的な電荷分離状態を作り出すことを見出し、その安定化機構をナノ秒オーダーの時間分解測定を含む分光学的測定と分子動力学計算を組み合わせることで新規に解明し、論文報告した。一方で、DmCRYは光依存的構造変化に伴って立体構造を変化させることが知られていることから、当該研究の進展に向けて、光依存的構造変化の検出系の確立に尽力した。検出にはタンパク質をトリプシンで処理したときのバンドパターンが立体構造の違いによって変化することを利用し、また精製方法も新たに改善した。これにより、暗状態と明状態の構造を明確に区別することが可能になった。当初はAt64とDmCRYの配列類似性に立脚して、DmCRYの変異体を作製し、DmCRYの構造変化機構を同定する予定であった。しかし、At64の電荷分離状態安定化機構が当初の予想よりもずっと特異的なものであったため、この方針の適用には至っていない。しかし、検出系の確立に成功していることから、今後、他の変異体を用いて実験することで、研究が進展すると期待される。
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