観測で得られる小惑星の反射スペクトルに基づき、小惑星の構成物質の推定が行われている。本研究の目的は、小惑星の反射スペクトルがどのような物質組成あるいは表面状態の特徴にもとづいているかについて制約を加えることである。そのためには、小惑星リュウグウから回収された試料や小惑星から地球に飛来した隕石試料の反射スペクトル測定および鉱物学的・有機化学的分析を行い、どのような物質科学的特徴がどのように反射スペクトルに反映されるかを明らかにすることが有用である。前年度は小惑星リュウグウから探査機によって回収された試料の反射スペクトル測定を多数行い、その反射スペクトルが300℃で加熱した炭素質隕石の反射スペクトルによく類似していることを確認した。そこで本年度は、この反射スペクトルの類似性を物質科学的観点から説明するため、小惑星回収試料および実験的に加熱した含水炭素質隕石試料の鉱物・有機物に注目した分析を行った。具体的には、試料の電子顕微鏡観察、赤外透過スペクトル測定、およびラマン分光分析を行った。前年度までに得られていた試料の鉱物組成などのデータと合わせて解析を行った結果、隕石を真空還元環境下で実験的に加熱すると(1)隕石中に含まれる地球大気由来の水の除去、(2)含水鉱物中の鉄の還元、(3)地球環境で生成した含水風化鉱物の脱水、(4)有機物組成の変化が起こっているという結論に至った。これらの特徴は小惑星回収試料の物質組成をよく模擬するものであるといえ、また、これらの物質科学的な特徴が反射スペクトルの特徴において支配的である可能性が示された。スペクトルを支配する物質の特定のためにはさらなる研究が必要であるものの、今まで小惑星の反射スペクトルの解釈の際に考慮されてこなかったこれらの観点について初めて実験・分析データにもとづいて示すことができた。
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