研究課題/領域番号 |
21J13358
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 亮 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | FoF1-ATP合成酵素 / リポソーム / 金コロイド / BSA / 一分子回転観察 |
研究実績の概要 |
FoF1-ATP合成酵素(FoF1)は、プロトン駆動力を利用してATPを合成する回転分子モータータンパク質である。近年様々な種由来のFoF1の構造が次々に解き明かされ、プロトン輸送経路や準安定状態など構造的知見が得られており、さらに回転プローブを用いたFoF1の一分子回転観察も行われている。しかし、生体膜を介したプロトン輸送とATP合成が共役しているという、実際の生体内環境と同等な条件での回転観察には成功していない。そこで本研究では、回転プローブとして金ナノ粒子を含有したリポソームに1分子のFoF1を再構成させ、そのFoF1をフローセル内で固定した状態で回転観察を行う。様々なリポソーム内液・外液条件下でFoF1の1分子回転観察を行うことで、実際の生体内環境での回転触媒機構及びダイナミクスを詳細に調べることを目指す。 本年度では、主に効率的なリポソームの形成手法の検討及び金コロイド粒子の封入の条件検討に主眼を置いた。まずリポソームの形成手法については、脂質の種類及び濃度・溶媒・調製時の温度・脂質溶解の手法などを検討し、本研究で用いる緩衝液において効率的にリポソームが形成する条件を発見した。また、リポソームと金コロイドを同時に顕微鏡観察する際、従来のF1の回転観察に用いる金コロイドの直径サイズである40 nmよりも一回り大きい60 nmに変更することで、リポソームと金コロイドを識別できることが判明した。これを踏まえ、60 nm金コロイドのリポソーム封入を試みたが、そのままの条件ではリポソーム形成効率及び金コロイドの封入効率が著しく悪かった。そこで、リポソームが内包する緩衝液にBSAを5 mg/mL以上で含有させるとそれらの効率が改善することを発見した。そして、この時のBSA濃度が0.5 mg/mLを下回るとBSAによる改善の効果が薄くなることも発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず金コロイドをリポソームに封入する際の条件検討を行った。脂質濃度や調製時の温度・種類などを検討し、さらに金コロイドの封入条件も行った。その際、蛍光脂質は形成効率を下げること、デカンは脂質を容易に溶かすが界面通過法には不向きであること、などの知見を得た。最終的に、蛍光脂質を用いず、人工脂質POPC 及び DOPGの濃度を当初の10倍である7 mM、 3 mMに変更し、さらにリポソーム内部溶液に5 mg/ml程度のBSAを含有させることで金コロイドを封入したリポソームを効率的に生産できることを発見した。また、金コロイドの運動を顕微鏡観察する際は、リポソームの散乱シグナルと比較して充分大きい散乱シグナルを金コロイドから取得する必要がある。そこで、一般的にF1の回転観察に用いられる直径40 nmの金コロイドではリポソームの散乱シグナルと識別ができず、60 nmの金コロイドであれば識別が可能であることを発見し、60 nmの金コロイドを用いてリポソーム形成を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、金コロイドを封入したリポソームにFoF1-ATP合成酵素(FoF1)を再構成させて、FoF1の回転運動の観察を行う。それに向け、まずリポソームに蛍光色素溶液と金コロイドを封入し、溶液の蛍光と金コロイドの散乱シグナルの同時計測を行う。本研究で用いる金コロイドのサイズは直径60 nmであり、リポソーム自体の散乱シグナルと識別できるほどの強度を持つことは確認済みである。次に、フローセルにおいて、リポソームに再構成したFoF1をガラス面上へ固定することを試みる。先にFoF1をガラス面に固定してからリポソームをフローセルにアプライする方法と、FoF1を再構成させたリポソームをフローセルにアプライする方法の2通りを検討する予定である。またこれに加えて、「FoF1とガラス面の親和性を上げるためHis-tagを導入するサブユニットの数を増やす」、「リポソームの内部溶液の比重を挙げてリポソームが沈降しやすくする」「PEG脂質を用いることで、脂質膜への金コロイドの吸着を和らげる」など、回転分子発見頻度が向上する条件を探索する。 顕微鏡観察時、一視野内に十分にFoF1を再構成したリポソーム、及び回転運動する金コロイドが観察できる方法を探索した後、ATP駆動・プロトン輸送駆動のFoF1の回転観察を行う。この際、回転速度・回転停止の数・停止位置の角度差などを重点的に調べる。解析には、本研究室でF1の回転のタイムコースを解析する際に頻繁に用いられているChange-point 解析手法を用いる。この手法では、数フレーム程度しかない短い停止でも存在を検出し、その角度位置や長さを計測することができる。ATP駆動・プロトン輸送駆動時の回転の違いを比較することにより、生体膜に再構成したFoF1の回転触媒機構のダイナミクスを詳細に調べることができると考えている。
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