研究課題
今年度は、薬剤ターゲットとして注目される病原性マイコバクテリアのFoF1-ATP合成酵素(FoF1)に焦点を当てた。結核菌などが属するマイコバクテリアのFoF1には、生育に不利な環境下でも生存するべく、種特異的なATPase活性の阻害機構を持つ。その阻害機構について、マイコバクテリア由来FoF1のアミノ酸配列比較や構造解析から、F1部分のαサブユニットC末端の30残基程度の領域(αCTD)であることが明らかにされた。特に近年の構造解析から、αCTDがγサブユニットのloop領域と相互作用するで、FoF1のATPase活性を阻害されることが明らかにされた。このαCTD領域は抗結核薬の標的部位として注目されているが、マイコバクテリア属は培養の難しさに加え、大腸菌を用いたマイコバクテリアFoF1・F1の大量発現・精製手法が確立されていないため、一分子レベルでのαCTDの機能解析は行われていない。そこで本研究は、このマイコバクテリアFoF1に特有な領域αCTDを、取り扱いが容易な好熱菌由来F1(TF1)に実装し、マイコバクテリア由来FoF1に特有なαCTD阻害を再現することを目指した。まずTF1の回転軸γをマイコバクテリア由来F1(MsF1)のγに交換した。この変異体F1に対してさらにそのαのC末端にMsF1のαCTD領域を導入したところ、αCTDの有無によるATPase活性の差異は見られなかった。そこでこの回転軸γについて、MsF1のγに結合しているεサブユニットを導入したところ、αCTD領域を含む変異体は、αCTD領域を含まない変異体よりも約10倍程度、ATPase活性が減少することを発見した。つまり本研究で、種特異的なF1のATPase活性制御機構を、別種F1上で再現することに成功した。この成果は、病原性バクテリアF1を標的とした薬剤スクリーニングに応用できると期待できる。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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iScience
巻: 26 ページ: -
10.1016/j.isci.2023.106626