研究課題/領域番号 |
21J13359
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
深田 愛乃 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 教育思想史 / 宮沢賢治 / 近代仏教 / 日蓮主義 / 国柱会 / 法華経 / 大正新教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、宮沢賢治における教育・仏教・農業に関する実践やテクストの考察から賢治の「教育思想」を浮き彫りにし、同時代の思想史的文脈に位置づけることを目指すものである。 本年度は、①賢治への近代仏教による影響と②賢治の文学作品上に見る教育思想の検討を進め、次年度以降に向けて③岩手県における大正新教育関連資料の収集を行った。 ①では、賢治と日蓮主義の在家団体・国柱会の関係についての検討を主眼に置き、国柱会研究室や身延山大学図書館等での資料探索を通して、賢治の抜き書き『摂折御文/僧俗御判』の分析を行った。本資料は、賢治が日蓮遺文や田中智学の著作からの抜き書きをまとめたものである。抜き書きの分析により、その背景にある賢治の日蓮主義研究の過程を推定し、国柱会入会前後の時期における日蓮主義「受容」の特質を明らかにした。本成果は、2021年度日本近代仏教史研究会大会にて発表し、論文「宮沢賢治の日蓮主義「受容」─『摂折御文/僧俗御判』の分析を通して」として『近代仏教』第29号に投稿した。 ②では、歴史的・思想史的な検討に重ね合わせることを最終的な目論見として、童話や詩などの文学作品から賢治の教育思想を汲み取り、〈教育内容〉〈教育関係〉〈教育目的〉の三つの観点から整理し分析することを試みた。その上で、賢治における教育のあり方と信仰世界の関連性について仮説を提示した。本成果は、論文「宮沢賢治の文学作品に見る「教育」─法華経信仰との関わりを探るために」として『賢治学+』第2集に投稿した。 ③では、盛岡高等農林学校における教育学講義を担当した岩手師範学校校長に関連する資料の収集・調査を岩手にて行った。その過程で、賢治と交流した岩手師範卒業者で大正新教育に携わった人物による言説資料の存在を複数確認した。本成果は、次年度に行う賢治と大正新教育の思想的関連性の検討の準備段階となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は新型コロナウイルスの影響が懸念されたものの、他機関所属者の受入を許可してくださった国内の資料館・図書館等にて集中的かつ継続的に資料調査を行うことができた。そのため、本研究の重点でもある賢治と国柱会の関係の初期段階についての研究成果をまとめることができた。他方で、盛岡高等農林学校での教育学講義に関する調査は、現存する資料の限定性が見え、研究の方向性を転換する必要に迫られることとなった。しかしその過程で、岩手師範学校周辺資料の存在を確認するに至り、次年度以降の研究準備が進捗を見せたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、宮沢賢治や彼と関わりを持った新教育実践家たちの活動を中心として、1920-1930年代の岩手県における「大正新教育」の展開についての本格的な調査に取りかかる。具体的には、第一に賢治と岩手の新教育実践家の交流関係や、それぞれの活動に関する事実的な調査を進める。第二に、第一の成果を踏まえ、賢治と実践家たちの新教育的な発想を介した影響関係や、賢治と大正新教育における思想的関連性・異質性を考察する哲学的な検討を行う。ここでは、賢治において仏教思想と新教育思想がどのように関わったのかという問題が一つの焦点となる。資料としては、各地方に所蔵された実践家たちの日記や著作、論考、岩手県における教育関連の雑誌や新聞、各学校の授業実践記録を主に扱う。 また、年度の後半からは、賢治の生きた岩手農村の実態をより鮮明にするために、東北農村における封建遺制的な性格と真宗信仰のあり方を併せて検討する。そのため、岩手の寺院分布や花巻周辺の土地の所有状況などの調査を進め、賢治が行おうとした農業教育実践・農村改良の思想史的な意義について検討する。最終的には、これまでに検討した仏教思想・新教育思想・農業思想との関わりより、賢治の教育思想の内実を明らかにすることを目指す。
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