本研究では(1)提案手法を利用するにあたりIndependence of irrelevant alternatives公理が維持される問題に対して、情報のスピルオーバーを加味した修正による解決と、(2)Gaussian Process(GP)を用いた人間の意思決定モデリングにおいて、主体が行動選択から得た主観的リターンを確率収束の観点から評価する手法の開発、の2点を期間内に完了させた。とりわけ(2)については提案モデルの応用上重要である。通常、GPとUpper Confidence Bound(UCB)方策を用いた人間行動のモデリングでは、主体が選択から得たリターンを分析者が観測する必要がある。しかしながら、一般に多くの応用問題において、リターンあるいは効用は主観的なものであり、観測者の手に入らないことが多い。この点の解決を試みた研究が(2)であり、結果、行動選択の履歴データの適切な利用により、分析者視点で観測不可能であった各主体のリターンを推定することを可能とした。同研究成果はGP-UCBモデルによる1つのボトルネックを取り除いたものであり、同手法の応用幅を大きく広げるものである。また採用期間内では、近年、情報の獲得・処理に伴う認知コストを明示的に導入したモデルとして注目されているRational inattention modelの神経科学的基礎づけの研究活動にも従事した。同モデルの発展は、探索行動における認知処理コストを機能的に扱うことにつながり、人間行動におけるレジーム・スイッチの理解に寄与するものである。しかしながら、当初予定していた研究計画ではジョブ・サーチやアンカリングといった人間の不確実性下における探索行動に対して、提案手法を用いたアプローチによる類推過程に関する解釈と意思決定モデリングの検討を目標としていたが、その段階までの達成には至らなかった。
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