肺に吸入される粒子状物質の人体への影響の理解のために、肺内の異形粒子の移動現象を解明することを目的とする。本研究では肺内の粒子の運動を直接観測することは困難であることから、数値シミュレーションに着目する。しかし、異形粒子では、球形粒子と異なり、回転を伴うことから、その運動挙動が複雑となる。申請者は昨年度に構築した異形粒子の抗力モデルを用いて,カスケードインパクター内の粒子運動挙動の解析に尽力した。まずはハイスピードカメラによって,アクリル円管内の針状粒子の運動挙動を実験と数値シミュレーションで比較した。その結果,粒子の軌跡は実験と数値シミュレーションで非常によく一致しており,簡単なモデルにおける計算の妥当性が検証された。続いて,カスケードインパクター内における針状粒子の運動挙動を,実験と数値シミュレーションで比較することで,数値シミュレーションの妥当性を検証した。その結果,本装置内における沈着挙動が実験と数値シミュレーションで一致していることが確認され,本装置内での数値シミュレーションが妥当であることが示された。最後に粒子のアスペクト比を変更し,本装置内の粒子運動挙動のならびに粒子の受ける流体抗力を解析すると,アスペクト比が大きい粒子の方が流体抗力を受けやすく,カスケードインパクターの深部にまで粒子が到達することを明らかにした。この結果から,アスペクト比が大きい粒子の方が,肺の深部に到達しやすいことが示唆された。
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