本研究では、ナノサイズのヒドロゲル微粒子や無機微粒子などの表面に生体膜を被覆することによる人工生体膜小胞の開発を目的としている。今年度は、シリカナノ粒子をモデルに粒子表面に人工生体膜を被覆する一連の手法の開発に重点を置いて研究を推進した。具体的な研究成果を以下に述べる。 無機微粒子表面に脂質二分子膜を被覆することで、生体適合性の向上や薬物の安定な保持が可能となることが報告されている。しかし、膜被覆粒子を構築する従来の手法は、限られた組成の粒子や生体膜にのみ用いることができ、粒子収率は低い。そこで、様々な組成の粒子や膜に適用でき、高収率で簡便な手法の開発が望まれている。本研究では、密度勾配遠心方により作製した濃縮脂質層にナノ粒子を透過させ、粒子表面に効率的に脂質二分子膜を被覆する手法を開発した。脂質層を透過した粒子の粒径は、20 nm程度増大しており、表面電荷は脂質により遮蔽されることが明らかとなった。これは、粒子表面に脂質が複合化したことを示している。また、示差操作熱量分析等の結果から、脂質膜を透過したシリカナノ粒子では用いた脂質の相転移温度付近に吸熱ピークが確認できた。これらの結果は、粒子表面に脂質二分子膜が被覆したことを示している。さらに、脂質膜被覆粒子表面に無細胞タンパク質発現系を利用して、自己組織的に膜タンパク質を修飾することについても検討した。実際に、正しい配向で、高い効率で粒子表面にフルレングスのSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を機能を保持した状態で修飾できたことがWestern blottingやイメージングフローサイトメトリーにより明らかとなった。 今年度実施した研究は、ナノ粒子をコアとして構成要素が明確に規定された人工生体膜を被覆した粒子を構築する新規手法としても学術的価値が高く、これらの結果は学術雑誌Smallに受理され、掲載された。
|