研究課題/領域番号 |
21J13608
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
栗澤 尚瑛 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 海洋天然物 / 構造決定 / 全合成 / ケミカルバイオロジー / iezoside |
研究実績の概要 |
本年度は、海洋シアノバクテリアを由来とする新規抗トリパノソーマ活性物質の探索および作用機序解明に向けた合成研究を行った。探索研究においては、新規抗トリパノソーマ活性物質として kinenzoline および hedoamide を発見し、構造を決定した。kinenzoline は種々のスペクトル解析および全合成によって構造を確定し、トリパノソーマ原虫に対しIC50 4.5 uM と中程度の増殖阻害活性を示す一方で、ヒト正常細胞であるWI-38に対しては100 uM でも毒性を示さなかった。Hedoamide は強力な抗トリパノソーマ活性を示す一方で、WI-38 と比較し30倍程度の選択性を示した。申請者が以前発見したiheyamide A については全合成を達成し、構造活性相関研究からペプチド部の伸長と共に抗トリパノソーマ活性が増強されることを見出した。 また、探索研究の過程で極めて強力ながん細胞増殖阻害活性を示す新規天然物 iezoside を発見した。本化合物は新規の炭素骨格を有するペプチド-ポリケチドハイブリッド配糖体であり、絶対立体配置を含む全構造を最終的に全合成によって確定した。さらに、iezoside の生物活性が強力なカルシウムポンプ阻害によって引き起こされることを明らかにした。Iezoside は新規抗がん剤リードとして有望な化合物であり、各種類縁体を合成して構造活性相関の解明に取り組んでいる。また、本化合物は抗トリパノソーマ活性も有するため、合成したライブラリーを用いてトリパノソーマ原虫に対し高い選択毒性を示す構造改変体の創出を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、抗トリパノソーマ活性を示す新規化合物を複数発見した。その多くは申請者が探索研究の初期に発見した iheyamide A よりも増殖阻害活性や選択毒性に優れており、海洋シアノバクテリアが抗トリパノソーマ活性物質の探索源として有望であることが示された。発見した化合物のうち、iheyamide A や kinenzoline については全合成を達成しており、構造の正しさを確かめるとともに、作用機序解析を行うための量的供給や誘導体合成を行う基盤を確立した。 また、構造新規性が非常に高く、ヒトがん細胞に対し強力な増殖阻害活性を示す iezoside を発見した。本化合物は全合成を達成するとともに、カルシウムポンプを標的分子とすることを明らかにした。Iezoside は新規抗がん剤のリード化合物として有用であるとともに、強い抗トリパノソーマ活性も示す。Iezoside の合成では多様な類縁体を合成できるルートを採用しているため、これを基に構造活性相関を検討し、トリパノソーマ原虫に対する標的分子を明らかにすることで選択毒性を高めた類縁体を創出することができる。 以上の結果をもとに、本研究計画は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、抗トリパノソーマ活性を示す新規化合物を海洋シアノバクテリアより探索する。強力な抗トリパノソーマ活性と選択毒性を示す hedoamide については一部の絶対立体配置が未決定であるため、分解反応や誘導体化を行うことで決定する。また、iezoside の類縁体についてライブラリーを構築し、抗トリパノソーマ活性について構造活性相関を検討する。
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