今年度は、昨年度に発見した強力な抗トリパノソーマ活性を示すヘドアミドの構造決定を行った。本化合物は多数の同一アミノ酸を含む巨大なペプチドであり、NMRを用いた構造決定は困難であった。そこで、化合物を部分酸加水分解し、得られたフラグメントの構造を決定した。これと天然物のMS/MS解析の結果を組み合わせることでその平面構造を決定した。また、得られたフラグメントをより強い条件で酸加水分解し、全ての立体化学を決定した。以上より、ヘドアミドが新規鎖状トリデカペプチドであることを明らかにした。現在、ヘドアミドの全合成研究を進めており、提唱構造や生物活性が正しいことを今後確認する。 また、抗トリパノソーマ活性および強い細胞毒性を示すイエゾシドについて、構造活性相関研究を行った。イエゾシドはペプチド、ポリケチド、糖の三成分で構成されていることから、具体的にどの部分が生物活性の発現に必須であるか確かめることを目的とし、ペプチド部分を省略した簡略体や糖を省略したアグリコン、脂肪酸の立体化学を変えたジアステレオマーなど計12種の類縁体を合成し、各種生物活性について評価した。論文未発表のため詳細は伏せるが、今後の研究に非常に有益な結果が得られた。 以上より、本研究課題で複数の海洋シアノバクテリア由来新規抗トリパノソーマ活性物質を発見し、その構造と生物活性を明らかにした。さらに、一部の化合物については全合成を達成し、構造活性相関や作用メカニズムにまで踏み込んだ研究を実施することができた。本研究を遂行することで得られた複数のリード化合物は、抗トリパノソーマ薬創出の足掛かりとして貢献することが期待される。
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